| 要旨トップ | 本企画の概要 | | 日本生態学会第61回全国大会 (2014年3月、広島) 講演要旨 ESJ61 Abstract |
企画集会 T13-3 (Lecture in Symposium/Workshop)
近年、陸上哺乳類へのGPS首輪の装着が普及し、以前より高精度・高頻度な動物の位置データが得られるようになった。しかし、GPSデータには欠測を含む測位誤差が存在し、行動圏サイズや移動軌跡を推定する際の支障となる。また、移動軌跡の解析では採食、移動といった行動の違いが重要な意味をもつ場合が多い。
測位誤差の平滑化および行動区分を行う手法はこれまでいくつか提案されているが、その中でスイッチング状態空間モデル(以下SSSM)は、平滑化と行動区分を同時におこない、かつ環境要因を組み込めるなど発展性が高いモデルとして注目される。そこで、本研究ではツキノワグマのGPSデータにSSSMを適用し、採食行動を定量的に識別する手法を提案した。
ツキノワグマ7個体から得た5分間隔のGPSデータを解析対象とした。SSSMは、動物が移動するときと採食するときでは、移動速度と移動角度に変化が生じると考えられることから、状態空間モデルに移動と滞在(採食)のスイッチングの概念を加えたものである。すなわち、状態空間モデルのプロセスモデルの中に、2つの離散的な状態推移を組み込むことで、真の移動軌跡の時間的推移を推定すると同時に、移動軌跡上のどこで移動や滞在しているかを推定した。さらに、GPS首輪に内蔵された活動量センサーの情報を合わせて、移動・活動中の滞在・休息中の滞在の3つの行動に区分した。
以上の解析によって、測位誤差を補正し、かつ、3つの行動を区分した移動軌跡が得られた。さらに、196か所の活動コア(活動中の滞在点が集中する地域)を現地踏査した結果、その84%からはクマ棚などの採食痕跡が発見された。このことから、SSSMによって実際の行動をある程度反映した行動区分ができたと考えられ、今後の移動データ解析への幅広い応用が期待される。