| 要旨トップ | 本企画の概要 | | 日本生態学会第61回全国大会 (2014年3月、広島) 講演要旨 ESJ61 Abstract |
企画集会 T17-3 (Lecture in Symposium/Workshop)
多くのサケ科魚類の生活史には,川で一生を過ごす「残留型」と海へ回遊する「降海型」の二型がある.降海型は海での豊富な餌を利用して大型化するのに対し,残留型は小型のまま早熟する.サクラマスでは,オスは残留型と降海型の両方が見られ,メスは大部分が降海型となる.
このような生活史多型は,川での成長条件に依存した条件戦略であると指摘されており,川で十分に成長ができなかった場合に降海型になると考えられる.しかし,川での成長条件と残留型の出現頻度に関する研究は多数あるにもかかわらず,その進化的機構を示した例はほとんど見当たらない.いっぽう,体サイズに依存した海洋生存率や繁殖成功度などの生活史パラメータに関する知見が近年蓄積されてきた.本研究では,野外観測値に基づく生活史モデルを構築して,それぞれの生活史型ごとに初期の体サイズに依存した適応度を計算した.
モデルによる適応度計算の結果,いずれの生活史型においても,初期の体サイズ(~個体の地位)が大きいほど適応度は上昇した.しかし,初期の体サイズが大きい場合は残留型の戦術をとることで適応度が最大化されるのに対し,初期の体サイズが小さい場合は降海型になることで適応度が最大化された.ただし,メスの場合,残留型と降海型の適応度が等しくなる変換点の体サイズは,非常に大きい体サイズとなり,残留型の戦術をとることは広い範囲で適応度の最大化には至らなかった.また,オスの場合,海へ回遊するコストが増加すると,変換点の体サイズは小さくなり,回遊コストの増加に伴い幼形成熟を開始する体サイズの閾値が小さくなると予測された.
これらの結果は,地位依存条件戦略(status-dependent conditional strategy)の考え方を支持した.