| 要旨トップ | 本企画の概要 | 日本生態学会第61回全国大会 (2014年3月、広島) 講演要旨
ESJ61 Abstract


企画集会 T18-3 (Lecture in Symposium/Workshop)

遊牧における寛容戦略と排他戦略の効用と進化

佐藤恵里子(同志社大)

モンゴルの遊牧民は寒冷乾燥気候の空間的、時間的変動が大きい環境のもとで伝統的な遊牧を行ってきた。2000年の遊牧の歴史の中で、遊牧民は他者に対する寛容な文化を作り上げた。その遊牧民の寛容さは、普段利用している土地の状態が悪く、家畜を放牧させる場所に困っている遊牧民がいたら、相手の家畜を自分の放牧地に受け入れることを容認するという面に表れている。しかし一方でモンゴル北部の比較的降水量の多い地域では遊牧民が土地を排他的利用していることが知られている。

このことから、本研究では降雨のパターンの違いによって遊牧民の寛容行動に差が出るという仮説を立て、格子モデルの数値シミュレーションによって検証を行った。遊牧民は自分が普段利用している土地の状態が悪いとき、隣の遊牧民に自分と相手の2つの土地を共有地として利用したいと提案することができるものとした。そのとき相手からの土地の共有提案を受け入れる戦略を寛容戦略、土地の共有提案を断る戦略を排他戦略とした。さらに寛容戦略は寛容さの異なる2種類の戦略を設定し、1つは常に相手からの土地の共有提案を受け入れるALLC型寛容戦略で、もう1つは、1回目は相手からの共有提案を受け入れるが、2回目以降は前回、相手が自分の共有提案を断ったことがあれば自分も受け入れを断るというTFT型寛容戦略である。シミュレーションでは、降水量の変動が大きいときに寛容戦略が排他戦略に対して有利になり、進化した。そのとき進化する寛容戦略はALLC型ではなくTFT型の寛容戦略であった。本研究で得られた結果はモンゴルの状況と一致している。


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