| 要旨トップ | 本企画の概要 | 日本生態学会第61回全国大会 (2014年3月、広島) 講演要旨
ESJ61 Abstract


企画集会 T18-4 (Lecture in Symposium/Workshop)

農業害虫の被害拡大と土地利用戦略:温暖化による侵入害虫を例に

福井眞(農環研 大気環境)

農業の歴史は農業害虫や病害との戦いの歴史でもあるといっても過言ではない。農業生態系において作物を餌とする植食者あるいは病原菌の存在、そしてその蔓延はどの農業地域にも普遍的な問題である。植物である作物が耕作地で不動なのに対し、害虫やウィルスのベクターとなる動物は自由に移動分散するため、近隣の耕作地で被害を共有する事態となる。このような作物にしての虫害や病害はときとして大幅な減収を引き起こすため、病虫害対策が講じられてきた。他方で、地球温暖化により生物の生息域変化が現実に起こりつつあり、農作物への被害をもたらす新たな害虫の侵入や、在来種においても越冬死亡率の低下が進行している。たとえばイネの害虫となるカメムシの被害を考えると、イネのみを餌とする狭食性の種から、広食性で年内の世代数が多いものへとシフトする傾向がある。とくに高い飛翔能力をもつ侵入害虫であるカメムシはその分散能と広い食性、さらにイネに対する選好性から、殺虫剤噴霧などの対策が及ばない耕作放棄地での増殖も問題となる。耕作放棄はさまざまな要因により全国的に進行している。本研究では、土地利用としての耕作面積率と耕作に伴うコスト、収穫のベネフィット、ならびに食害による利益低下をモデル化し、害虫の分散により近隣農家で一定個体数の害虫を共有する状況での農家の土地利用戦略を考える。害虫の繁殖と耕作放棄との関係性を示すとともに、害虫の分散をとおして他地域の耕作率が近隣への食害被害の拡散、さらに害虫の定着と分布拡大へ与える影響を考察する。


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