| 要旨トップ | 本企画の概要 | 日本生態学会第61回全国大会 (2014年3月、広島) 講演要旨
ESJ61 Abstract


企画集会 T18-5 (Lecture in Symposium/Workshop)

イネいもち病の被害と管理の現状および病原菌個体群動態を通した対策

善林薫(東北農研)

イネいもち病は、その被害量が全収穫量の一割を超えることもあるイネの最重要病害のひとつである。本病の病原はいもち病菌というカビである。本病は保菌イネ種籾が主な伝染源で、空気伝染により生育期間に4~5回の感染を繰り返して爆発的に増殖し、甚大な被害をもたらす。薬剤による防除は、種子消毒から収穫前まで何度も行われるが、感染に適した気象条件下で本病を制御することは現在でも困難である。これに対しこれまで、新規の抵抗性遺伝子を導入した抵抗性品種が育成されてきた。しかしいもち病菌集団では、変異により抵抗性に対する病原性を獲得した菌系が速やかに優占化するため、抵抗性の多くは普及後数年で無効化する。従って、現在の主要イネ品種は本病防除を薬剤に依存している。さらに近年、薬剤に対する耐性菌の発生が相次ぎ、防除をより困難にしている。このいもち病菌の病原性とイネの抵抗性の進化的軍拡競争において、いもち病菌集団の圧倒的な進化速度の前では、イネ(人間)側に勝ち目は無いように思える。しかし一方で、「圃場抵抗性」と呼ばれる、感染を完全に防ぐことはできないが実害が出ない程度の低い発病に抑える抵抗性の中には、抵抗性品種の普及後30年以上を経ても抵抗性を維持し続けているものもある。抵抗性はどのような場合に持続的になるのだろうか?その答えを求め、抵抗性遺伝子と病原菌の病原性関連遺伝子の機能や相互作用を明らかにする研究が進められている。一方我々は、圃場抵抗性遺伝子や様々な管理条件が、いもち病菌集団の病原性変化を含む進化に及ぼす影響を明らかにし、「抵抗性を無効化させないイネ栽培管理方法」の提示を目指した研究を始めたところである。本講演では、これら現状を紹介し、病原菌集団進化の研究を病害防除に活かす方法について議論したい。


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