| 要旨トップ | 本企画の概要 | 日本生態学会第61回全国大会 (2014年3月、広島) 講演要旨
ESJ61 Abstract


企画集会 T20-4 (Lecture in Symposium/Workshop)

植物が利用可能な環境情報:センサとしての植物利用

久米篤(九大・北海道演習林)

植物がどのように「感じて」「考えて」いるかを人間が直接理解することは難しい。外部環境変化に対する植物の反応を予測するためには、植物が感じている野外環境を生物研究者が把握していること、すなわち、植物が利用出来るであろう野外情報の把握という観点が必要である。

たとえば、温度変動を植物がどのような生理学的メカニズムによって「感じて」いるのかは不明な点が多い。生物環境物理学的な立場から考えると、実際の植物に影響を及ぼしているのは植物表面の温度とエネルギーの出入りである。これは日射や周辺からの長波放射、大気や地中との熱交換、表面からの蒸散量などによって決まるものであり、必ずしも気温と良い対応を示さない。すなわち、野外の植物は、直接気温に反応するというよりかは、自身と外部環境とのエネルギー収支を、酵素反応や細胞内環境の変化、それに付随する遺伝子発現変化の総体として「感じて」いるため、単純な温度センサとしては扱いにくい。

一方、植物の光受容体は、基本的に特定波長の光量子を吸収して量子的に「感じて」、その結果を直接的に遺伝子発現に利用できるため、検出感度は非常に高くなりうる。ある特定波長同士の比率も重要な情報となるため、植物の光環境を評価するためには、単なる明るさ(エネルギー量)だけでなく、近赤外域まで含めた環境中のハイパースペクトル情報が重要となる。一方、植物がどの光量子信号を受容したかどうかを外部から直接的に判断することは困難であることが多く、光量子センサとしても扱いにくい。

時間制御の観点からは、受容された環境情報はデジタル信号として細胞内に生理的に積算して変換されて利用されることが多いため、アナログ的に発現しているように見えることも重要であろう(検知と記録が融合している)。

このような植物のハード-ソフトコンプレックスを理解して応用する上で,遺伝子発現データは非常に重要なツールになっている。


日本生態学会