| 要旨トップ | 本企画の概要 | 日本生態学会第61回全国大会 (2014年3月、広島) 講演要旨
ESJ61 Abstract


企画集会 T23-1 (Lecture in Symposium/Workshop)

漁獲を”選択”として考える ‐進化生態学の水産資源管理への応用‐

千葉晋(東京農大生物産業)

漁獲対象となっている動物の多くは、野生動物として自然選択を受けると同時に、人間の都合に応じた選択(漁獲選択)も受けている。それぞれの選択下では、最適な表現型や生活史スケジュールは一致しないことが多い。例えば、自然下で生存率の高い大型個体は市場価値が高いので、漁業下での生存率は逆に下がりやすい。水産科学者の間では、漁獲に起因した生活史変異は古くから知られていた現象だが、その適応的意義について議論されることはほとんどなく、漁獲選択は進化生態学者の空論として批判されることも多い。これは個体群の存続において漁獲選択の影響が無視できるほど小さいか、あるいは水産科学において進化生態学的な論理が理解されていないかのどちらかであろう。本話題では、ホッカイエビという雄性先熟の性転換を行う動物を例に、漁獲選択が空論ではないこと、そしてそれを実際の資源管理に取り入れるまでの過程と問題点を紹介する。

ホッカイエビ漁業では性転換後の雌ばかりが漁獲されている。短期的に見ると、このエビは性比の歪みに応じるように可塑的に性転換する体サイズを変えており、大型の雌が少ない年ほど小型の雌が増加していた。しかし、その性比調節には身体的な制約があるため雌の補充は十分でなく、さらに彼らには予測できない繁殖期直前の漁獲によって可塑的な応答は無意味になることもあった。次に長期的に見ると、性転換サイズの漸進的小型化が進行しており、これは慢性的な雌不足に対する遺伝的な応答であると考えられた。メスの小型化は繁殖率を劇的に低下させるため、最終的には個体群は縮小する可能性が高い。これらの結果を踏まえて、持続可能なホッカイエビ漁業のあり方について検討し、実践するまでの詳細について話題提供する。


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