| 要旨トップ | 本企画の概要 | 日本生態学会第61回全国大会 (2014年3月、広島) 講演要旨
ESJ61 Abstract


企画集会 T24-1 (Lecture in Symposium/Workshop)

奄美群島の植物相の過去と現在

宮本旬子(鹿児島大学理学部)

南西諸島の鹿児島県側の大隅諸島、トカラ列島、奄美群島を薩南諸島といい、奄美群島は、奄美大島、加計呂麻島、請島、与路島、喜界島、徳之島、沖永良部島、与論島などから構成される。いわゆる渡瀬線の南側にあり、亜熱帯的要素が卓越する地域である。自然林と二次林を合わせた常緑広葉樹林は、奄美大島から与路島まででは島面積の6割、喜界島では2割、徳之島では3割を占め、特に奄美大島では森林の連続性が高い。植生の構成種には、ユーラシア大陸、東南アジア、オセアニアの植物と近縁な分類群が含まれる。過去の植物相関連の文献を総合すると、明らかな外来種を除き、奄美群島には1300種類前後の維管束植物が自生すると推定される。日本列島全体と比べてシダ類とラン科の割合が高い。自生分類群の5%が固有で、奄美群島を北限地や南限地とする種が空間的に隣接した場所に生育する例もある。IUCNおよび環境省レッドリスト掲載植物のうち 108種類が奄美大島に63種類が徳之島に分布している。複雑な地質や地形を反映した多様な生育環境が小面積の島嶼内に存在したことが種の多様性を保持してきた要因と考えられる。しかしこの地域の地史については諸説あり、大陸からの離脱時期や各島の地形発達史には未解明の点も多い。分類学的位置づけが不明確な種類、文献記録があっても現状不明な種類、産地記載がされていない種類もある。DNAデータベースに情報が登録されている種類は1割に満たず,その大部分は他地域の同種から得られた情報である。また,外来種の分布情報は極めて断片的である。分類学的な再検討や分子系統地理学的研究の必要性もさることながら、有史以前から現代に至るまでの人為的な影響も考慮しつつ植物相の現状の解明を進めることが、この地域の自然環境の価値を考える上で不可欠であると考える。


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