| 要旨トップ | 本企画の概要 | 日本生態学会第61回全国大会 (2014年3月、広島) 講演要旨
ESJ61 Abstract


企画集会 T25-2 (Lecture in Symposium/Workshop)

水田生態系の高CO2応答~イネ-土壌系の炭素・窒素フローとメタン発生に着目して~

*常田岳志, 酒井英光, 林健太郎, 臼井靖浩, 中村浩史, 長谷川利拡(農環研)

「光合成を促進し気孔を閉じ気味にすること」に端を発する高CO2影響は、大気-植物-土壌系で生じる様々なプロセスに波及し、その結果生じた変化(例えば気孔開度低下による群落温度の上昇や、生育促進に伴う土壌無機養分の減少)は再び一次生産者に影響を与える。開放系大気CO2増加(Free air CO2 enrichment、FACE)実験は、このような生態系レベルでの影響の連鎖とループを調べることができる貴重な研究プラットフォームである。演者らは現在、茨城県つくばみらい市に設置された水田を対象としたFACE実験施設において、様々な生態系応答に着目した研究を行っている。

一次生産者のガス交換への高CO2影響には生態系を超えて共通する点も多いが、そこから波及する効果は個々の生態系の特徴によって大きく異なる。ここでは水田の最大の特徴、すなわち「田面水の存在」に起因する2つの現象に焦点をあて話題を提供したい。1つは 大気からの酸素供給が遮断され土壌が還元的になる結果生じるメタン生成である。これまでに、高CO2によって増加したイネの光合成産物の一部は根圏土壌へ転流・放出され、その結果大気へのCH4発生量が大きく増加しうることが分かってきた。これは高CO2が温暖化をさらに加速させる気候変動のフィードバックとしても重要な知見である。

2つ目は田面水・土壌表層などで生じる生物的窒素固定に関する話題である。イネの生育は他の主要作物と異なり窒素固定によって維持される地力窒素の発現に大きく依存する。したがって中・長期的な水田生態系の高CO2応答は、窒素固定とイネによる窒素吸収が高CO2によってどのように変化するかに大きく左右される可能性がある。本発表では現時点で不足している知見を整理することで、今後の研究の方向性についても展望したい。


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