| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第62回全国大会 (2015年3月、鹿児島) 講演要旨
ESJ62 Abstract


一般講演(口頭発表) G1-18 (Oral presentation)

グッピーにおいて生息光環境の変化がオプシン遺伝子発現量と色覚に与える影響

*酒井祐輔(東北大・生命),大槻朝(東北大・生命),笠木聡(東大・新領域),河村正二(東大・新領域),河田雅圭(東北大・生命)

視覚や聴覚といった感覚の特性は、性的シグナルの知覚に関わることで配偶者選択に影響を与える。そのため異なる環境に適応した感覚の特性は、個体群間の性選択の動態を変化させ、好みや性的シグナルの分化を引き起こす可能性がある。しかし、こうした分化の引き金となる感覚の特性の変化がどのような遺伝的メカニズムのもとで生じるかを実証的に明らかにした例は少ない。本研究では、オスの体色と体色の知覚に関わる色覚に種内多様性が確認されているグッピーを用いて、環境に応じた色覚の変化が生じる遺伝的な機構を解明することを目的とした。グッピーは緑やオレンジ、赤色光の知覚に関わる長波長感受型オプシン遺伝子を4座位(LWS-1, LWS-2, LWS-3, LWS-4)有しており、そのうちLWS-1には吸収波長の差異をもたらす対立遺伝子が存在する。また、LWSは成長過程で遺伝子発現量が変化しやすく、個体群間でもLWSの発現量の分化が確認されている。そこでLWS-1の遺伝子型とLWSの遺伝子発現量の変異が色覚の変化を生じさせているという仮説をたて、以下の実験を行なった。異なるLWS-1遺伝子型をもつ個体の波長感受性を比較したところ、緑色光である546nm付近の光に対する感受性に差異があった。また、異なる人工的な光環境の下で同一のLWS-1遺伝子型をもつ個体を飼育し錐体オプシン9遺伝子の眼球での発現量を測定したところ、生育光環境によってLWS-1の相対発現量に差異が見られた。色覚を推定するモデルにより、この発現量の変化は生育段階で経験した光環境に対する感度を上昇させている可能性が示された。これらの結果は、LWS-1の遺伝子型と生育光環境によるLWS遺伝子の可塑的な発現量変化がともに色覚に影響を与えている可能性を示唆している。


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