| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第62回全国大会 (2015年3月、鹿児島) 講演要旨
ESJ62 Abstract


一般講演(口頭発表) G1-23 (Oral presentation)

アリ随伴アブラムシ共生微生物ブフネラの遺伝的変異

八尾泉(北大院・農・昆虫体系)

Buchnera(ブフネラ)はアブラムシの共生微生物であり,植物篩管液から必須アミノ酸合成とアブラムシ体内の窒素リサイクリングの役割を担っている。随伴アリによる甘露要求はアブラムシ自身の栄養代謝だけではなく,Buchneraのアミノ酸合成や窒素リサイクリングにも大きな負荷をかけていると予想される。このことから,アリ随伴アブラムシとBuchneraの共進化は,非随伴アブラムシに比べて,より密接に進行してきたと考えられる。本研究では,Tuberculatus属アブラムシ23種(アリ共生型アブラムシ11種と非共生型アブラムシ12種)を対象にして,Buchneraの遺伝子3カ所の分子系統樹を作成し,各遺伝子にかかるselectionの強さを比較した。アミノ酸代謝関連遺伝子のilvDとTrpB, そしてハウスキーピング遺伝子のdnaBから系統樹を作成し, dN(非同義塩基置換速度)とdS(同義塩基置換速度)の比dN/dS (=ω)を推定した。さらにアリ随伴アブラムシ種クレードと非随伴種クレードの各ωを算出したモデルと,系統樹内の全枝で進化速度一定とするモデルとの尤度の差を,カイ二乗テストで検定した。その結果,ilvD遺伝子に対してのみ,アリ随伴・非随伴クレードのωを算出したモデルが有意に高かった。アリ随伴・非随伴クレードのωはともに< 1を示し,purifying selectionを受けていた。しかしアリ随伴クレードのωは,非随伴クレードのものに比べて約3倍大きかった。つまり,アリ随伴アブラムシBuchneraのアミノ酸代謝の一部は,非随伴種のものに比べて,selectionが緩和されていると考えられた。予想に反して,非随伴アブラムシの方が,アミノ酸合成や窒素リサイクリングに強い選択圧を受けている可能性が示唆された。


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