| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第62回全国大会 (2015年3月、鹿児島) 講演要旨
ESJ62 Abstract


一般講演(ポスター発表) PB1-096 (Poster presentation)

アイノキクイムシにおける要件的繁殖分業制の可能性 : 姉妹が同居すると一方はヘルパーになる !?

*藤戸茜, 梶村恒, 水野孝彦(名古屋大・生命農・森林保護)

キクイムシ(ゾウムシ科キクイムシ亜科、ナガキクイムシ亜科)は、熱帯から寒帯まで様々な樹種や森林タイプを利用し、食性、配偶様式、社会行動などの生態も多様である。その中の養菌性グループは、材部に穿孔し、坑道(巣)内で共生菌を栽培して食物としている。さらに、坑道内で子を保護する本グループの全ての種が亜社会性であり、真社会性の種も報告されている。したがって、その生態解明に世界的な関心が集まっている。今回演者らは、アイノキクイムシについて、複数の親個体が同一坑道内で繁殖する現象(以下、共同穿孔)を発見し、その利他的行動を詳細に調査した。

可視的な人工飼育法を用いて、本種の雌成虫2頭(顔料インクで個体識別)を投入したところ、供試した20組中10組で共同穿孔が起こった。そこで、坑道内を定期的に動画撮影し、供試虫の行動を記録した。その結果、共同穿孔した2頭のうち、片方は穿入孔(巣の入口)の近く、他方は坑道の先端(巣の奥)側におり、その位置関係が交代することはほとんどなかった。穿入孔付近の個体はフラス(糞と木屑の混合物)の排出や坑道の防衛などを行っていたが、坑道先端側の個体はこれらを全く行っていなかった。また、新成虫の出現後に坑道を切開して坑道長と次世代数を調べたところ、共同穿孔した坑道と雌1頭で創設(通常の単独穿孔)した坑道との間に、いずれも有意差はみられなかった。これらの事実から、片方もしくは両方が単独穿孔する時よりも少なく卵を産んでいると考えられ、共同穿孔が“繁殖的分業を伴う同居”である可能性が示唆された。


日本生態学会