| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第62回全国大会 (2015年3月、鹿児島) 講演要旨
ESJ62 Abstract


一般講演(ポスター発表) PB1-115 (Poster presentation)

Biased random walkを用いたオオミズナギドリにおける直線移動能力の定量的評価

*後藤佑介(東大大海研), 依田憲(名大・環境), 米原善成, 佐藤克文(東大大海研)

鳥が目印の無い環境でも、方位、現在地、そして現在地と目的地の位置関係を知る能力を持つことは1950年代に「地図とコンパス仮説」として提唱され、近年ではこれらの能力を担う器官やその機構も明らかになりつつある。鳥が地図とコンパスを如何に用いているかは、風が存在する環境下で移動する鳥を観察すれば、その頭部方向の調節ルールから知ることができる。調節ルールは例えば以下の3つが考えられる。1)頭の向きを常に同じ方向に向ける(コンパスを利用)。2)頭の向きを目的地に向ける(コンパスと地図を利用)。3)移動時間を最短にする(コンパスと地図を利用、かつ風向風速から最短ルートを計算)。鳥が3つのルールのいずれを採用しているかを検証した先行研究では、鳥の経路と現場の風向風速から鳥の対気速度ベクトルを推定し、それを頭の向きと見なしている。しかしこの方法は風のデータが時空間的に疎な場合に使えない。

そこで本研究では、岩手県船越大島で繁殖するオオミズナギドリにGPSロガーを装着し、1分間隔で記録された帰巣経路と、新しい統計モデルを用いて、鳥の対気速度ベクトルと風向風速を推定した。モデルでは、鳥の対気速度ベクトルがbiased random walkに従い、風向風速が一定な場合に、GPS経路から得られる対地速度ベクトルの分布が対気速度ベクトルと風速ベクトルに分解できることを利用した。推定した風向風速は衛星リモートセンシングで推定された風向風速と良く一致した。また、いくつかの個体では、実際の帰巣経路の向かう先が目的地である繁殖地からずれている場合でも個体の対気速度ベクトルが目的地に向いていた。これは鳥が数百kmも離れた地点から正確に戻るべき繁殖島の方位を認識していたことを意味し、本種がコンパスと地図を利用していることを示唆している。


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