| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第62回全国大会 (2015年3月、鹿児島) 講演要旨
ESJ62 Abstract


一般講演(ポスター発表) PB1-117 (Poster presentation)

統計資料を用いた人間行動生態学研究:レビューと日本における少子化の例

*森田理仁(総研大・先導科学/JSPS), 大槻久(総研大・先導科学), 長谷川眞理子(総研大・先導科学)

ヒトの行動に対して,現在の環境における適応性を探究するアプローチは,「人間行動生態学」と呼ばれている.従来,人間行動生態学の研究対象は,狩猟採集民や農耕牧畜民が中心であった.しかし,近年では,産業化社会等のその他の人々を対象としたものも多くなっており,その背景の一つには,統計資料を用いた研究の増加がある(Nettle et al., 2013, Behav. Ecol.).また,ヨーロッパでは,教区簿冊に記録された家系データを行動生態学の視点から分析する研究も盛んに行われている(e.g., Courtiol et al., 2012, PNAS).

本発表ではまず,統計資料を用いて行われた,児童虐待,協同繁殖,性的対立といったトピックの先行研究をレビューした後,著者らが行っている少子化の研究例を紹介する.出生率は適応度に最も直接的に影響するため,その低下による少子化は,人間行動生態学にとって非常に興味深い現象である(Borgerhoff Mulder, 1998, Trends Ecol. Evol.).具体的には,「子どもの数に影響を与える要因」と「出産の起こりやすさに影響を与える要因」の二つの研究を紹介する.そして,これらの研究を踏まえた上で,統計資料を用いることの利点,欠点,および,欠点を補う方法について考えたい.

また,ヒトの行動に対する進化生物学的アプローチとしては,他にも,過去の環境における心理メカニズムレベルでの適応に注目する「進化心理学」や,文化の影響に注目した「遺伝子・文化二重相続理論」も存在する.このような複数の異なるアプローチが存在する中で,人間行動生態学の研究が果たす役割についても合わせて議論したい.


日本生態学会