| 要旨トップ | 本企画の概要 | 日本生態学会第62回全国大会 (2015年3月、鹿児島) 講演要旨
ESJ62 Abstract


シンポジウム S03-3 (Lecture in Symposium/Workshop)

資源評価・管理の先行事例とウナギ資源研究への示唆

黒田啓行(水産総合研究セ)

現代の水産資源管理では、漁期や漁場、漁具などを規制する努力量規制や、獲ってもよい漁獲量の上限(総漁獲可能量:TAC)を定める漁獲量規制など、複数の管理方策を組み合わせて実施するのが一般的である。

特に近年、世界のマグロ漁業や日本の沖合漁業など大規模な漁業では、資源評価に基づくTAC管理が重要視されつつある。これらの資源では利用できるデータが比較的多いため、漁獲データ(漁獲量、努力量、CPUEなど)や資源調査データ(分布量や加入量など)に基づき、資源評価が行われる。資源評価で使われる数理モデルは、資源量をベースとした簡便なモデルから、漁獲物の体長分布など詳細な情報を扱える高度なモデルまで、利用可能なデータに応じて使い分けられる。資源評価により、過去から現在にかけての資源量や漁獲死亡率などが推定され、目標となる資源量との比較などにより、将来のTACが決められるのが一般的である。

TACを定める別のアプローチとして、近年注目されているのが管理方式(MP)である。MPとは、資源量指数や資源調査結果などから予め定められたアルゴリズムにより、将来のTACを算定する(多くの場合、簡便な)漁獲制御ルールのことである。通常、徹底的なコンピュータシミューレーションにより、管理方式の不確実性に対する頑健性を事前に検証する作業が行われ、この検証過程は管理戦略評価(MSE)と呼ばれる。このアプローチを用いれば、通常の資源評価を行うにはデータや知見が不足している資源でも、不確実性に頑健な管理を実施できる可能性が高まる。この考え方はミナミマグロや日本の沿岸資源の管理に活かされつつある。

現代の資源管理では、生物や漁業の情報の多寡に応じて、資源評価手法や管理方策のツールは徐々に整いつつある。ウナギの資源管理でも現状に合わせて適切な評価や管理の手法を選択することが重要であろう。


日本生態学会