| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第63回全国大会 (2016年3月、仙台) 講演要旨
ESJ63 Abstract


一般講演(口頭発表) I1-02 (Oral presentation)

立山アルペンルートの除雪が道路沿線の森林に及ぼす影響

*石田 仁(岐阜大・応), 中島春樹(富山県森林研), 大宮 徹(富山県森林研)

近年,北アルプス立山の観光道路沿線においてオオシラビソ林の衰退が顕著となっている。当地域の年最大積雪深は約4~6mに達するが,4月の初旬までには立山・黒部アルペンルートの除雪が完了し大量の積雪が道路外に投雪される。本研究では,アルペンルート直下のオオシラビソ林に設置した固定調査地の追跡調査結果をもとに,除雪が当地域のオオシラビソの衰退に及ぼす影響について検討した。1999年から2014年にかけて,林分全体の胸高断面積合計は調査期間中ほぼ一定であったが,オオシラビソの大径木(胸高直径20cm以上,積雪期間中樹冠が積雪面を超えるおおよその境界サイズ)は枯死量が成長量を上回り,調査期間中減少していた。2010年には道路から水平距離約60m付近までに生育するオオシラビソの樹冠直下では顕著な量の異常落葉が認められ,胸高直径が大きく道路に近いほど立木ほど落葉量が多かった。異常落葉が認められた範囲は,ロータリー除雪車の最大投雪距離にほぼ一致しており,多量の落葉が除雪車の投雪によってもたらされている可能性が強く示唆された。オオシラビソ大径木の活力度(5段階評価)は,落葉量が多い立木ほど低下が大きく,道路に近いほど低い傾向があった。道路に近いほど死亡率の高い活力度1と2の個体割合が高く,今後も道路沿線の立木の衰退が進行するものと推測された。豪雪地帯の森林では,観光道路の除雪によって森林衰退が引き起こされる危険性があり,その保全のために観光道路の除雪方法に配慮する必要がある。なお,本調査地付近では2011年以降,除雪方法を改善し投雪範囲の異常落葉は観察されなくなった。


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