| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第63回全国大会 (2016年3月、仙台) 講演要旨
ESJ63 Abstract


一般講演(口頭発表) I1-03 (Oral presentation)

排水の影響を受けた歌才湿原の植物群落の分布

*イ・アヨン(北大農学院),冨士田裕子(北大FSC植物園),小林春毅(北大FSC植物園),井上京(北大農学研究院)

歌才湿原は黒松内低地帯に位置する北海道南部に残存する希少なミズゴケ湿原である。面積は約4.5haで、国道で南北に分断されており、湿原の周囲には排水路が掘られ、湿原の水が排水され乾燥化が進んでいる。歌才湿原の植生はヌマガヤ-イボミズゴケ群落によって特徴づけられるが、道路建設や排水路の掘削による乾燥化で、ミズゴケ類の減少やシラカンバ、ササの侵入、ハイイヌツゲの増加といった顕著な植生変化が認められる。

植物群落の分布については1996年に橘・冨士田が植生調査を実施している。しかし、それから20年を経て、さらに排水による乾燥化が進み、ハイイヌツゲやササ、樹木の侵入拡大が懸念される。そこで、排水による植物分布の変化を明らかにするため、植物群落と水文環境の調査を行った。植物群落については、調査地を道路の北部は30m、南部は20mのメッシュに区分し、その交点で植生調査を行い、群落を区分した。また、ドーロンで湿原域を撮影して、植生図を作成し、1996年の植生図と比較した。水文環境については、湿原周辺と湿原内に掘削された主要な3本の排水路に直交する調査測線を設け、排水路から距離に応じて水位の継続測定を行った。

解析の結果、ハイイヌツゲとササの拡大は20年前と比較して、最も深い排水路が湿原内に掘られている南部で顕著であった。また、ヌマガヤ-イボミズゴケ群落も減少していた。水位は排水路に近いほど低下し、湿原内に向かうほど高く維持されていた。南部の最も深く幅広い排水路と北部の東側の排水路の水位変動が大きかった。今後、保全のために排水路の堰上げを行う予定で、水位の上昇が植物群落の分布に与える影響解明が課題である。


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