| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第63回全国大会 (2016年3月、仙台) 講演要旨
ESJ63 Abstract


一般講演(口頭発表) I1-05 (Oral presentation)

キンラン属3種の保全手法確立にむけた好適生育環境と生存戦略の推定

*長谷川啓一,上野裕介,大城温,光谷友樹,瀧本真理,井上隆司(国交省・国総研),遊川知久(国立科学博物館)

キンラン属は、我が国の里山地域を代表する春植物であり、おもに広葉樹の林床に生育する。また近年、里山林の荒廃や樹林の減少に伴って生育地が減少しつつある。これらキンラン属の保全手法としては、無菌培養による実生増殖や株移植に関する研究報告が多く、一部では里山林の林床管理により生育を促す活動も見られる。その一方、最近になってハモグリバエ類による果実への食害と、種子生産への影響が懸念されるようになってきた。このように、キンラン属の保全の必要性は高まっており、効果的な保全手法の確立が求められている。しかし、キンラン属の生態的特性や種子の食害の程度については未だ不明点も多い。

そこで本研究では、キンラン属の効果的な保全手法を検討するため、キンラン、ギンラン、ササバギンランの3種を対象に、各種の生育環境の違いを明らかにするとともに、種子の食害率等に関する基礎的な調査を行うこととした。

調査は、樹林の管理状態や林内環境と3種の生育株数の関係や、着花率や草高等のシュートの違いを調べた。また、3種の果実の食害状況を調べ、結実率を求めた。

その結果、生育株数は、3種とも樹林の非管理エリアに比べて管理エリアで多いことがわかった。一方、3種で林内の生育環境に大きな違いは確認されていないが、着花率の違いや菌依存度等から3種は異なる生存戦略をとっているものと推定された。他方、3種のいずれもハモグリバエ類による著しい食害が確認され、特に果実サイズの小さいギンランでは顕著であった。これらの結果から、キンラン属の保全のためには、生育環境を維持するための樹林管理の促進に加え、ハモグリバエ類による食害対策が重要と考えられた。


日本生態学会