| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第63回全国大会 (2016年3月、仙台) 講演要旨
ESJ63 Abstract


一般講演(ポスター発表) P2-208 (Poster presentation)

捕食リスクはメスの角の進化を促すのか:ウシ科における系統種間比較

*原野智広,沓掛展之(総研大・先導研)

多くの動物では,配偶相手の獲得をめぐるオスどうしの闘争が起こり,闘争のために用いられる形態形質が発達している。代表的な形質は角である。有蹄類では多くの分類群(ウシ科,シカ科,プロングホーン科,キリン科およびサイ科)で角が見られ,これらの種いずれでもオスは角を持っている。一方,メスも角を持つどうかは分類群によって異なる。ウシ科では,オスだけが角を持つ種(インパラ,ブラックバック,クーズーなど)と,オスもメスも角を持つ種(トムソンガゼル,ヌー,エランドなど)とが系統樹内で混在している。なぜ近縁な種間でもメスの角の有無という変異が存在するのかは疑問である。

ウシ科におけるこれまでの系統種間比較研究では,体が大きく,開けた場所に生息する種でメスの角が進化しているという関係が検出されている。このような種は捕食者の目に付きやすいと考えられることから,メスの角は捕食者に対する防衛形質として進化したと示唆されている。しかし,捕食リスクとの関係は検証されていない。

本研究では,系統種間比較法を用いて,ウシ科の主要な捕食者である肉食動物種(ライオン,ヒョウ,トラ,チーター,ブチハイエナ,リカオンおよびドール)それぞれからの捕食の受けやすさと,メスの角の有無との関係を検証した。その結果,いずれの捕食動物種による捕食の受けやすさでも,メスの角の種間変異は説明されなかった。したがって,対捕食者の防衛形質として角が進化したという仮説は支持されなかった。捕食以外の要因,たとえば餌資源をめぐる個体間の競争などが,メスの角の進化を促す上で重要であると考えられる。


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