| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第63回全国大会 (2016年3月、仙台) 講演要旨
ESJ63 Abstract


一般講演(ポスター発表) P2-211 (Poster presentation)

ミスミソウの種内多型はどのような歴史的背景で生まれたか:RAD-Seqによるゲノミック系統地理

*岩崎貴也(京大・生態研), 永野惇(龍谷大・農, JSTさきがけ, 京大・生態研), 工藤洋(京大・生態研)

日本のミスミソウHepatica nobilis var. japonica(キンポウゲ科)には、顕著な種内多型(葉型、花色、倍数性など)が存在する。例えば、主に日本海側の品種「オオミスミソウ」は、葉や株が大型で、集団内でさえ顕著な花色多型(青、ピンク、白色など)を示す。太平洋側の他の種内分類群でも、葉先が尖る「ミスミソウ」(主に西日本)や、葉先が丸い「スハマソウ」(主に東日本)、4倍体の「ケスハマソウ」(主に西日本の瀬戸内海付近)など、様々なタイプが存在する。これらの分布には明らかな地理的偏りがあり、この植物の多様化の過程において中立な分布変遷史が強い影響を与えたことが予想された。

本研究では、この植物の多様化の歴史を明らかにすることを目的とし、RAD-Seq解析で得られるゲノムワイドSNP(一塩基多型)の情報を用いて分子系統地理学的解析を行った。日本全国36集団93サンプルから2188のSNPsが得られ、最初に4倍体であるケスハマソウは他の分類群から大きく遺伝的に異なることが明らかになった。残りの2倍体集団の中でも分化がみられ、東西集団の間には富山~愛知付近を境界線にした明瞭な分化がみられること、北陸の集団は東日本に近い組成を持つが、小さな独自の遺伝的グループを形成することなどが分かった。さらに、近似ベイズ法に基づくコアレセントシミュレーションで複数の集団動態シナリオを検証した結果、2倍体の中で東西分化が起こった後、最近に北陸の集団が比較的大きな有効集団サイズで東日本集団から分岐したという歴史が支持された。このことは、北陸集団でみられる顕著な花色多型が、花色多型の無い系統から派生的に進化したことを示唆している。


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