| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第63回全国大会 (2016年3月、仙台) 講演要旨
ESJ63 Abstract


一般講演(ポスター発表) P2-219 (Poster presentation)

エゾサンショウウオにおける表現型可塑性の地域集団比較

*松波雅俊(北大・地球環境), 北野潤(遺伝研・生態遺伝), 岸田治(北大・FSC), 道前洋史(北里大・薬), 三浦徹(北大・地球環境), 西村欣也(北大・水産)

生物は変化する環境のなかで異なる表現型を示すことがあり、異なった表現型が単一の遺伝子型から生じる現象は表現型可塑性と呼ばれる。環境条件に依存してどのように表現型が変化するかは、リアクションノーム(reaction norm)として表現できるため,これを遺伝的に異なる集団間で比較することにより,表現型や可塑性の状態がどのように進化してきたのかを考察することが可能となる。エゾサンショウウオ (Hynobius retardatus)は、北海道の止水生態系に生息する有尾両生類であり、幼生の表現型可塑性について様々な研究がなされている。なかでも被食者であるオタマジャクシ存在下では、捕食に有利な頭部が発達した攻撃型となる。この被食者の存在による攻撃型への変化は地域集団間で顕著な違いがみられる。本研究では、エゾサンショウウオの可塑性の進化過程を明らかにするため、本種を対象とした集団多型解析をおこない、解析結果を集団間のリアクションノームと比較することで、その進化過程を推定した。先行研究でのmtDNAのhaplotypeの分布を考慮し、北海道内の5つの地域(函館・野幌・襟裳・北見・天塩)で卵の採集をおこない、同一の条件で攻撃型可塑性の形態変化を誘導し、幾何学的形態測定をおこなった。測定の結果、襟裳集団は孵化直後から攻撃型に近い形態を示し可塑的変化能力は小さいこと、天塩・函館集団は、孵化直後は通常の形態だが最も大きな形態変化を示し可塑的変化能力が大きいこと、野幌・北見集団は可塑的変化能力が小さいことがあきらかになった。また、マイクロサテライトによる多型解析の結果、これら5集団は明瞭に異なる遺伝構造を持つことがわかり、可塑性はそれぞれの集団で独自に進化したことが示唆された。


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