| 要旨トップ | 本企画の概要 | | 日本生態学会第63回全国大会 (2016年3月、仙台) 講演要旨 ESJ63 Abstract |
シンポジウム S02-2 (Lecture in Symposium/Workshop)
保全対策を講じるために、生物の分布データは欠かせないが、必要とされる分布情報と、実際に得られる分布情報の間には、たいていの場合にギャップが存在する。よくあるギャップの例としては、得られるデータが空間的に網羅的でない、座標精度や同定精度が不十分である、分類群に偏りがある、などが挙げられる。近年、これらのギャップを多少なりとも解消する方法として、分布推定モデルが様々な場面で多用されるようになっている。しかし、全ての場合において分布推定モデルが有益なわけではない。
本講演では、データギャップを埋めるための分布推定モデルの有効な使い方について、主に発表者自身が試行した以下の3つの事例について紹介する。1.希少種の分布推定について。在地点数が少ない希少種は、分布推定が特に難しい。多種の分布を同時に推定する手法など、希少種の分布推定の改善を試みた結果を報告する。また、あわせて、調査を行ったが見つからなかったという記録(不在情報)がない、“在のみデータ”の問題についても、モデル上の適切な扱い方について、文献情報を含めて紹介する。2.座標精度の問題への対応。特に古い標本情報などでは、地名しか位置情報がなく、座標精度が低い場合が多い。異なる座標精度のデータが混在する場合の、分布推定精度の向上方法について、新しく開発した方法を紹介する。3.保護区選択における分布推定モデルの利用について。保護区選択の際にも、データギャップが問題になるが、分布推定モデルによる補間が本当に有益なのかどうかシミュレーションデータによって検証した結果を紹介する。
以上の事例に加え、文献事例も含めて、データギャップを埋めるための分布推定モデルの利用に関する近年の状況について紹介し、有効な利用のしかたについて議論したい。