| 要旨トップ | 本企画の概要 | 日本生態学会第63回全国大会 (2016年3月、仙台) 講演要旨
ESJ63 Abstract


シンポジウム S02-3 (Lecture in Symposium/Workshop)

生態学的データの空間的・分類群間偏りを解消するための取組み

大澤剛士(農業環境技術研究所)

多くの生態学研究は、研究者によって研究目的、注目する研究対象、調査地が設定される。研究者は調査地において目的に従った調査デザインを組み、データを収集し、解析して結果を論文にするだろう。しかし、社会的なニーズによって研究目的、対象種や対象地が決まることが多い保全科学においては、この生態学では当たり前のアプローチが実施できないことが珍しくない。保全科学に関わろうとする研究者の多くは、まず必要なデータが存在しないというデータギャップに直面する。例えば自然再生を行う際の目標とすべき過去の生物相データは、今から取得することはできない。包括的な生物多様性評価を行おうとしても、県や国レベルの広域調査を実施することは、時間や金銭の制約から難しい。比較的狭い範囲であっても、多分類群のデータを網羅的に取得することは簡単ではない。そこで公開データベース等の既存データを探すことになるが、これも万能ではない。例えば農地における生物のデータは森林に比べて極めて限られている。国立公園等の自然公園では様々な生物調査がなされやすいが、都市域に点在する小規模な公園では生物調査自体が滅多に行われない。木本の分布範囲は比較的よく知られているが、食べられないきのこの分布域はほとんどわかっていない。皆が興味を引く美しい蝶の標本や採集記録は多数あるものの、モンシロチョウのような普通種の記録はほとんど見つけることができない。本講演は、保全科学において当たり前に直面する様々なデータギャップ:時間的、空間的、分類群的に存在するギャップに焦点を当て、これらの現状確認および、それを解消するためのアイディアや具体的な取り組みを紹介し、課題解決に向けた今後の展望について、生態学に限らない保全科学的な広い視点から議論したい。


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