| 要旨トップ | 本企画の概要 | | 日本生態学会第63回全国大会 (2016年3月、仙台) 講演要旨 ESJ63 Abstract |
シンポジウム S02-5 (Lecture in Symposium/Workshop)
自然保護の現場において「科学」は、あくまで生物多様性保全や持続的な資源利用、あるいは環境自治を実現する上での「手段」に過ぎないものの、最も重要なツールの一つである。しかし、たとえば保全生態学は保全に有効な科学とされてきたが、実際には役に立たないことがほとんどである。もう少し誤解を招かない説明をすれば、「①保全生態学などに関する科学的データを、合理的判断に利用する土俵がそもそもない」「②データを利用して行動を起こそうという意欲がそもそも利害関係者に十分高まらない」「③科学的情報を使うユーザー側にとって適したタイミングや判断基準にそった形で情報が提供されない」といったことが原因となっている。
①については、たとえば都市計画の際には宅地開発のニーズとそれによって失われうる生物多様性や生態系サービスを本来バランスさせなければいけないが、そもそも生物多様性保全を前提にした都市計画を行うための根拠法・権限・計画策定プロセスがない。このギャップの解消には科学的アプローチは有効でないかもしれない。②については、「自然を守ったほうが儲かる」というような市場規範に基づく判断ができるよう、生態系サービスを可視化・市場化するための研究が近年進んでいる。一方で、人間は社会規範に基づく不合理な判断も行うことを前提とすることも重要である。より多くの人を保全行動に結び付けるための、行動経済学や行動心理学等を基盤としたConservation Phycologyという言葉も近年使われ始めている。③については、科学者の工夫や覚悟や意識の問題である。たとえば都市計画の例では、都市計画部局が都市マスタープランを改定する際に、意思決定に利用しやすい形・タイミング・媒体で科学的情報が届くことが重要である。本発表では、演者の現場での自然保護活動の経験や保全活動を行う市民の意識調査の結果などを織り交ぜて上記を説明したい。