| 要旨トップ | 本企画の概要 | 日本生態学会第63回全国大会 (2016年3月、仙台) 講演要旨
ESJ63 Abstract


シンポジウム S04-7 (Lecture in Symposium/Workshop)

野外水域でのメタバーコーディング:MiFishをつかった舞鶴湾での環境DNA解析

山本哲史(神戸大・発達)

水域における魚類などの水生生物群集では、網による捕獲や潜水による目視観察など、さまざまな手法で水域の魚類群集が記載されてきた。しかし、これら従来の調査手法では調査における労働コストが大きいという欠点がある。本シンポジウムのテーマである環境DNAを用いた調査法は野外調査の労働コストを著しく低減でき、従来法における欠点を補う可能性がある。特に、魚類のミトコンドリア12S rRNA遺伝子を対象とする汎用性の高いプライマーセット(MiFish)が開発されたことにより、環境DNA解析法との組み合わせにより数時間で広域の網羅的調査が可能となる。

そこで本研究では、目視観察による魚類群集観察とMiFishメタバーコーディングによる魚類相解析を比較した。目視観察では2002〜2015年の4〜8月に週に1回の頻度で600mのラインセンサスを合計140回(約93時間)実施し、その結果、80種を記録した。一方、環境DNAサンプルは、2014年6月に舞鶴湾東湾においてわずか6時間の採水作業によって得た47地点のサンプル154種の海水魚を検出した。目視観察された魚類群集のうち73%がMiFishメタバーコーディングでも検出され、本手法が幅広い分類群を偏りなく検出することが示された。また、検出された種数は目視調査26回分で検出される種数に相当することから目視調査よりも高い検出効率が示唆される。さらに目視観察では砂利の中や藻場などに生息する魚類は観察されにくいが、MiFishメタバーコーディングでそのような観察しにくい魚種も検出した。このようにMiFishメタバーコーディングを併用した環境DNA解析法は、広域調査において短時間で多地点の調査を実現し、さらに目視調査と比較して検出効率が高いことが示された。本手法は水域生態系における群集解析において大きな力を発揮することが示された。


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