| 要旨トップ | 受賞講演 一覧 | 日本生態学会第63回大会(2016年3月,仙台) 講演要旨


日本生態学会奨励賞(鈴木賞)受賞記念講演 3

なぜ植物はアリと共生するのか? —生育条件に応じた可塑的な防御と成長への投資—

山尾 僚(弘前大学農学生命科学部)

相利共生は、種間で互いに利益を得る関係であり、様々な分類群で広く知られる。植物の中には、アリ類といった捕食者を蜜などの報酬で誘引し外敵を排除させる生物的防御を進化させており、防御共生を築いている種がいる。これまで多くの生態学者が、生物的防御の機能やコストを明らかにしてきたが、既に物理・化学的防御を獲得していた植物が、なぜ生物的防御を進化させたのかについては、未解決の問題であった。

 私は、植物が複数の防御形質を備えている点に着目した。アリ類による生物的防御に加え、物理的防御と化学的防御を同時に備えるアカメガシワ(トウダイグサ科)を材料とし、生物的防御と他の防御のコストとベネフィットを比較することに成功した。各防御形質と成長とのトレード・オフの程度(=防御のコスト)と、各防御形質の植食者に対する効果(=防御のベネフィット)を検証した。その結果、物理・化学的防御は、生物的防御に比べてコストが高いが、植食者に対して確実に機能していた。一方、生物的防御の効果は、誘引されたアリの種類や密度に依存しており不安定であった。しかし、そのコストは物理・化学的防御よりも低く、生物的防御を適用することで植物は、早い成長が可能になるという防御機能以外の全く新しい利点を実証した。さらに、生物的防御の利用は、他の植物との競争が激しい林縁部や林冠ギャップなどの生育地に限られていること、林縁部や林冠ギャップであっても、価値の高い新葉は物理・化学的防御で確実に守り、価値の低下した成熟葉ではコストが低い生物的防御に切り替えることを明らかにした。これらの結果は、アリとの防御共生が競争環境下で有利に働き、進化してきたことを示唆している。

日本生態学会