| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第64回全国大会 (2017年3月、東京) 講演要旨
ESJ64 Abstract


一般講演(ポスター発表) P1-A-011  (Poster presentation)

無翅化した生殖カーストに見られる体サイズの2極化ー女王アリの巨大化と矮小化ー

*有本晃一(九州大学)

社会性昆虫の繁栄は、カースト分化や社会構造、協調行動の進化に起因する。彼女らの女王形態や繁殖様式、コロニーサイズ、採餌戦略といった社会性特有の形態的・生態的特性は、相関して進化し、種の多様化や分化が促進されてきたと考えられる。しかし、各特性の相関や進化的道筋を種レベルにおいて明らかにした研究は少ない。
ハシリハリアリ属は世界の熱帯域から310種が知られる、ハリアリ亜科で最も多様な分類群である。本属の女王は生活史を通して無翅であることが知られている。無翅女王は、社会性昆虫の中でもアリ科にのみ生じており、アリ科の中でも少ない現象で、本属が最も種数が多い。そのため、女王の無翅化が本属の顕著な多様化に貢献した可能性がある。そこで、ミトコンドリアと核の遺伝子を用いた本属52種の系統解析を行い、4つの特性(女王形態、繁殖様式、コロニーサイズ、採餌戦略)の進化を調べ、各特性の相関を明らかにすることで、無翅化女王の獲得が多様化にどのような影響を与えているのかを検証した。

解析の結果、本属は“女王が巨大化した系統”と“女王が矮小化した系統”に分けられることが判明した。“巨大化系統”では、体サイズが明確に「女王>ワーカー」となっている。また、各種の特性は似ており、各特性の相関した進化が系統内で不可逆的に進行してきた可能性が示唆された。一方、“矮小化系統”では、体サイズが「女王≒ワーカー」「女王<ワーカー」となっており、さらには「女王アリの消失」が起こっている種も確認された。他の特性にも変異があり、“巨大化系統”とは異なる進化過程を経てきたことが示唆された。
アリ科では、飛翔能力の喪失が関連器官の退化をもたらし、飛翔能力・器官の確保に縛られない新たな形態的・生態的多様化がトレードオフとして起こっていることが示唆されている。本属の顕著な多様化は、無翅化とのトレードオフによって得た恩恵の典型であると言える。


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