| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第64回全国大会 (2017年3月、東京) 講演要旨
ESJ64 Abstract


一般講演(ポスター発表) P1-A-019  (Poster presentation)

RNA-seqに基づく琵琶湖固有魚種の分岐年代と適応進化

*伊藤僚祐(京大院理), 三品達平(京大院理), 田畑諒一(京大院理), 小北智之(福井県大), 武島弘彦(地球研), 橋口康之(大阪医大), 渡辺勝敏(京大院理)

 琵琶湖は世界最古の湖のひとつであり、その多様な湖沼環境に適応した生活史や形質をもつ多様な固有魚が生息する。これまで琵琶湖固有魚種の起源や進化史を探る目的で、系統解析や分岐年代推定が行われ、固有種の分岐年代は種により大きく異なることが明らかにされてきた。しかし、それらの研究はミトコンドリアDNA(mtDNA)を用いた研究がほとんどであり、核DNAマーカーを用いた研究は乏しい。本研究では、琵琶湖深層に適応し特異な生活史を示すイサザとウツセミカジカ、および沖合環境に適応した形態や生態を示すホンモロコの計3種、およびそれらの近縁種に対して、RNA-seqデータ(8,000–15,000遺伝子座)に基づく系統解析を行った。得られた多数の核DNAのSNPデータを用いて、固有種の種系統樹および分岐年代の推定、また交雑を含む詳細な進化史の推定を行った。さらに遺伝子ごとの分子系統や浸透交雑パターンを踏まえて正の自然選択を受けた遺伝子の探索を行い、選択の示唆された遺伝子について、同じハビタットに生息する固有種間では類似の遺伝子が検出されるかを比較検討した。その結果、イサザおよびホンモロコにおいて、無視できない数の分子系統樹(<5%)が種系統樹と異なる樹形を示した。さらに、イサザとその近縁種では核DNAとmtDNAが異なる系統関係を示し、過去の交雑を示唆した。一方、固有種の分岐年代は先行研究より古く推定される傾向がみられた。また、各固有種系統において正の自然選択を受けている遺伝子が10–100遺伝子検出されたが、固有種間で共通する遺伝子は検出されなかった。これらの結果より、種の歴史が古い固有種であっても、過去に、あるいは断続的な交雑を伴うような複雑な進化史を経たことが示唆される。また固有種の湖沼適応の遺伝的基盤は、系統間で大きく異なる可能性が高い。これらの知見は、今後発現量調節などの機構による適応進化を調べる土台となるものである。


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