| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第64回全国大会 (2017年3月、東京) 講演要旨
ESJ64 Abstract


一般講演(ポスター発表) P1-E-158  (Poster presentation)

なぜ人は森で癒されるのだろうー脳波からみる森林の心理的効果ー

*野田佳愛, 伊勢武史(京都大学)

森林浴は、生態系サービスのひとつである文化的サービスに含まれる。ストレス社会と呼ばれる現代では、森林のもつ癒し効果に対する期待は高く、自然が人間の脳や体にもたらす影響が研究されてきた。しかし、森林の心理的効果に関する既存研究では、臨床的な調査票を用いたものが多く、定量的な評価ができていないのが現状である。そこで、屋外でも簡単に使用できる脳波測定ヘッドセットMindwave Mobileを用いて脳波を測定し、森林浴による心理的効果を検証した。本研究では、脳波の測定と同時に視覚及び聴覚情報を記録し、森林浴によるリアルタイムの心理的効果とその要因を明らかにすることを目的としている。本研究は、心理的癒し効果をより効果的に与える森林および森林浴形態の提案につながることが期待できる。
実験は、2016年8・9月に、森林に関心のある大学生約20名を対象に行った。被験者には、ウェアラブルカメラ付き脳波計を装着した状態で森林内の林道を10分間自由に散策してもらい、気になったものについては写真を撮ってもらった。ウェアラブルカメラの映像は、被験者の行動と視界および音の3項目について記録した。また、脳波計のデータは無料アプリEEG analyzerで0~100の値をとる「集中度」および「リラックス度」に変換した。これら2つのデータを照合することで、被験者の行動や環境情報に対する集中度とリラックス度を毎秒毎に明らかにすることができた。
この実験では、生きものに触れたときにリラックス度が上昇することや、視覚情報において水がさほど影響を与えない可能性が示唆された。また、写真を撮るという意思決定がされたと思われる時間帯には、集中度とリラックス度がともに平均的な値か、もしくはどちらか一方が高い値をとることが分かった。このように、森林の心理的効果は多面的であり、さらに解明が進むことで、これまでは漠然としていた文化的な生態系サービスの定量化につながることが期待される。


日本生態学会