| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第64回全国大会 (2017年3月、東京) 講演要旨
ESJ64 Abstract


一般講演(ポスター発表) P1-E-166  (Poster presentation)

長野県上伊那地方の水田地域におけるゲンゴロウ類群集の構造と立地環境条件との関係

*山地祥子(信州大学大学院), 大窪久美子(信州大学学術研究院農学系)

 近年、水田地域のゲンゴロウ類の減少や絶滅が危惧されている。主な要因は生息環境の消滅や減少、変化と考えられるが、詳しい知見はない。そこで本研究では、比較的自然性の高い中山間水田地域が残る本地域においてゲンゴロウ類群集と立地環境との関係性を解明し、保全策を検討することを目的とした。
 調査は3地域(A、B、C)を選定し、本田とその他の止水環境を対象にした。群集調査は2016年5月~12月に計4回実施した。さらに立地環境調査として土地利用調査と水深や植被率、リター量、水質、水温を計測した。
 全体で10属13種2515個体が出現した。成虫は13種、その内8種の幼虫を確認した。希少種としては環境省及び長野県レッドリスト掲載種が5種出現し、その内3種は幼虫も確認された。3地域の成虫共通種は6種、幼虫共通種は4種だった。中でもクロゲンゴロウは希少種だが、全地域で幼虫も確認された。各地域の特徴として、Aは最も多様度が高く、希少種のマルガタゲンゴロウが成虫と幼虫共に出現した。BはAとの共通種として希少種ケシゲンゴロウ等の小型種3種の成虫とクロズマメゲンゴロウの幼虫が出現した。CはAと共通してサイズが最大で希少種のゲンゴロウの成虫と幼虫が出現した。各止水環境に対する各種の選好度指数から、5種の幼虫が湛水期の本田を、またその内、大型2種は土水路も選好した。中型2種の幼虫は非湛水期の土水路を選好した。各地域の土地利用の特徴として、Aは土水路、Bは森林、Cは池沼の面積割合が大きかった。
 本地域は全県の4割の種数が出現し、ゲンゴロウ類の多様性が高かった。レッドリスト掲載種は各地域で特徴的であり、地域ごとに優先的に保全する必要がある。特にクロゲンゴロウは上伊那の中山間水田地域を代表する種と考えられた。繁殖環境としては湛水期の水田と土水路が重要で、地域内での止水環境の組み合わせが群集構造に影響すると指摘された。


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