| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第64回全国大会 (2017年3月、東京) 講演要旨
ESJ64 Abstract


一般講演(ポスター発表) P1-E-176  (Poster presentation)

身近な自然がシンガポール人の生物に対する嗜好に与える影響

*谷口捺実(首都大学東京)

近年、都市政策において生物多様性が重要視されており(大石,2011)、都市計画において生物多様性保全の要素が取り込まれるようになった。都市の生物多様性の保全を進めるには、自然環境の保護と都市の様々な構造や機能とのバランスを保つことが重要である。そして都市に現存する自然環境の保護だけでなく、都市住民のニーズに応えつつ、都市に適応した新しい自然環境を作りだすことも重要である。しかし都市には多様な人々が居住するため、生物多様性保全を進めつつ、都市住民に受容され、利用・維持管理されるような自然環境を実現するためには、都市の人々が自然や生物に対してどのような意識をもっているのか理解することが不可欠である。
本研究では都市の生物多様性に関する取組が活発化し、多様な民族が共存する都市国家のシンガポールに着目し、過去と現在の居住環境の違い、過去と現在の自然利用頻度がそれぞれどのように野生生物の嗜好に影響を及ぼすかを明らかにすることとした。アンケート調査を行ない、シンガポールに生息する野生生物27種に対して認知度、好き嫌い、共存意志、その他属性、居住環境周辺の自然環境の有無、自然利用頻度等について質問した。結果を集計し、野生生物の好き嫌いの得点を因子分析、それぞれの因子に対して重回帰分析を行って、どの要因が野生動物の嗜好に影響を及ぼしているのか検討した。
抽出された要因は5つで過去の自然利用頻度、過去の居住環境周辺の自然環境、年齢、学歴、人種だった。過去の自然利用頻度が高い人ほど「植物+森の鳥」、「害 虫」グループの種を好み、過去の居住環境周辺に自然がある人ほど「人気者」、「都市の鳥」グループの種を嫌う傾向があった。幼少期に都市部に住んでいた人、自然環境を多く利用した人ほど特定の種を好むことが明らかになった。


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