| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第64回全国大会 (2017年3月、東京) 講演要旨
ESJ64 Abstract


一般講演(ポスター発表) P1-H-264  (Poster presentation)

多雪地ブナ林における樹木個体群の葉群フェノロジー:2014年から2016年の観測

*山浦攻(信州大学大学院教育学研究科), 井田秀行(信州大学教育学部)

 長野県カヤの平ブナ林の1ha調査区で2014〜16年の5月下旬〜11月中旬、樹木(≧0.3m、全18樹種343幹)の葉群フェノロジーを3〜9日間隔で観察した。樹幹毎にフェノロジーの段階(冬芽・開芽・展葉・開葉・変色・紅[黄]葉・落葉)と各段階の全葉量に占める割合(%)を記録した。各段階の開始日(葉量25%に達した日)と完了日(同75%)を求め、展葉日数(展葉完了日−開芽開始日)と着葉日数(変色開始日−展葉完了日)を算出した。
 結果、林冠木(≧10m、n=48[うちブナ44本])と下層木(<10m、n=295[うちブナ65本])で展葉開始日を比較すると、2014・15年は下層木の方が平均12、22日遅く、2016年は逆に下層木の方が平均8日早かった。これは、2016年の最深積雪が2014・15年(340、350cm)の約半分(170cm)と少なかったため少雪時期も早く、それに応じて展葉時期も早まったと考えられる。このことから、残雪によって物理的に制限される下層木の展葉開始時期は、積雪の多寡に大きく左右されることが示唆された。また並行して調べた残雪深は、大径木の積算優占度が高い場所では、少ない傾向にあり、このことから消雪は閉鎖林冠下で早く、逆に林冠ギャップで遅いと推察された。
 下層木のフェノロジーをブナと他種で比較すると、いずれの年もブナの方が展葉日数は有意に短く、着葉日数は有意に長い傾向にあった。林冠ギャップ内(高木を欠く10区画[10×10m2]:G)でみると、2014・15年はブナ(65、61本)の展葉開始日が他種(230、221本)よりも平均3、4日早かった。しかし、2014年の閉鎖林冠下(G以外の16区画:C)と2016年ではG、C共に、ブナ(59本)と他種(209本)間の展葉開始日に差が認められなかった。以上のことから、ブナ下層木は、他種よりも先んじて、しかも素速く展葉することで遅い消雪に対処し、フェノロジーの上でも多雪環境に適応した樹種であることが示唆された。


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