| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第64回全国大会 (2017年3月、東京) 講演要旨
ESJ64 Abstract


一般講演(ポスター発表) P1-M-373  (Poster presentation)

日野市倉沢周辺における景観の変遷および市民農園を核とする里山管理の特長

*大石絵美, 倉本宣(明大・農)

かつての里山の中の雑木林では、皆伐や下草刈り、落ち葉掃きを行うことで生活や営農に必要な薪や肥料を得ると同時に、林の遷移の進行を止め、豊かな植生を維持することが出来ていた。しかし生活様式の変化や化学肥料の普及により、雑木林の経済的な利用価値は低下し、次第に管理放棄や宅地などへの転用がなされるようになった。近年では里山保全活動が増加しているが、維持管理費に加え、多額の課税がなされることから、緑地の宅地化が推し進められているというのが現状である。
このような背景のもと、市民ボランティア団体である「倉沢里山を愛する会」では、市民が日野市に働きかけパートナーシップ協定を締結することで、相続による転用に瀕した緑地を保全する取り組みを行ってきた。また、市民農園が保全活動のフィールドのひとつとして位置付けられて運営されており、雑木林から得られた落ち葉を堆肥にすることで、農地へ持ち出すという取り組みがなされている。
そこで本研究では、この倉沢地域において行政と市民が連携して行った緑地保全の成果を示すため、土地利用の変遷および保全上重要とされる場所との植生に関する種数面積関係についての調査を行い、互いに離れた雑木林と農地を一体的に管理している活動の特徴を示すため、落ち葉に由来する窒素の移動について調査を行った。これにより、今後の里山保全管理の一助となることを目的とした。
調査結果から、倉沢地域の雑木林は細分化されながらも維持されており、保全上重要とされる場所と同程度の多様性が維持されていることが示唆された。また、雑木林で生産される落ち葉の1/6程度の窒素が堆肥として市民農園で利用されていたことから、適度に窒素を持ち出す持続的な管理を行うことが、植生の維持や向上に貢献していると推察された。
今後は現地調査によって、倉沢地域を特徴づける植物の生育環境と管理活動との関係を明らかにすることが研究上の課題である。


日本生態学会