| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第64回全国大会 (2017年3月、東京) 講演要旨
ESJ64 Abstract


一般講演(ポスター発表) P2-A-001  (Poster presentation)

宮城県金華山島における野生ニホンザルのオニグルミ採食行動

*田村大也(京都大院・理・生物)

堅い殻に覆われたり,隠れた場所に位置したりするために,可食部を取り出す操作が必要である食物の採食行動は「取り出し採食」と呼ばれる。取り出し採食は,霊長類の知性の進化を促進した要因の一つと考えられており,この行動について多様な系統や種で知見を蓄積することは霊長類における知性の進化の理解に繋がる。宮城県金華山島の野生ニホンザル(Macaca fuscata)はオニグルミ種子(Juglans mandshurica; 以後,クルミ)の堅い外殻を歯で割り,中に含まれる子葉を採食する。そのため,クルミ採食行動は「取り出し採食」に位置付けられる。堅い外殻を歯で割るためには強靭な咬合力が必要であると予測される。一方で,外殻を割るためには咬合力に加え,何らかの採食技術が必要な可能性もある。そこで本研究は,まずクルミ採食個体の性・年齢に着目し,咬合力とクルミ採食行動の関係性について基礎的な情報を提供する。さらに,クルミ採食行動を詳細に分析することで,採食技術のバリエーションを明らかにする。2015年および2016年の秋,B1群を対象に調査を行った結果,7歳以上のオスではすべての個体でクルミ採食が確認された。一方,メスで採食が確認された個体の最少齢は5歳であったが,5歳以上のメスのうち6個体は一度も採食が確認されなかった。以上のことから,クルミを採食するためには咬合力だけでなく,採食技術も必要であることが示唆された。その採食技術として4つのクルミの割り型(粉砕型,片半分型,半分型,拡大型)が確認され,個体によって示す割り型が異なっていた。各割り型は5つの操作要素の組み合わせで構成され,その構成が割り型によって異なることが明らかになった。この結果は,食物採食において複数の操作要素を組み合わせるといった行動の複雑性や個体によってその組み合わせが異なるという行動の柔軟性を野生ニホンザルが有していることを示唆している。


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