| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第64回全国大会 (2017年3月、東京) 講演要旨
ESJ64 Abstract


一般講演(ポスター発表) P2-A-020  (Poster presentation)

ベーリング海北部セントローレンス島における海鳥類の採餌行動

*高橋晃周(国立極地研究所), Jean-Baptiste Thiebot(国立極地研究所), Alexis Will(アラスカ大学フェアバンクス校), Alexander Kitaysky(アラスカ大学フェアバンクス校)

 北極域では近年急速な温暖化が進行し、夏季の海氷面積が顕著に減少している。海氷面積の減少にともなって、船舶航行などの人間活動も拡大しつつある。ベーリング海北部は、海氷減少にともなう動物プランクトン・魚類の分布変化が報告されており、またベーリング海峡という北極海と太平洋をつなぐ船舶航行の要所があることから、環境変動や人間活動が海洋生態系に与える影響が特に懸念されている海域である。ベーリング海北部のセントローレンス島にはウミスズメ科を中心に約200万羽の海鳥類が生息しているが、1980年代に繁殖生態・食性の調査が行われて以降、ほとんど調査が行われておらず、海鳥類への温暖化の影響や船舶航行増加のリスクは評価されていない。そこでこれらの環境影響評価の基礎となるデータを取得することを目的に、2016年からセントローレンス島においてバイオロギング技術を用いた海鳥類の採餌行動の調査を開始した。本ポスターでは得られた初期的な結果について報告する。
 海上での行動範囲を調べるためにGPS記録計を装着した結果、ハシブトウミガラス、ウミガラス、エトロフウミスズメがいずれも島の北東部に広がる浅い(<40m)陸棚海域を繁殖地から最大で27 km、 69km、 47 kmの距離まで移動して採餌していることが明らかになった。最も行動範囲が広いウミガラスにおいては行動範囲の一部が島の東側の主要な船舶航行ルートと重複する可能性が示された。また深度記録計を装着・回収できたハシブトウミガラスでは、夜間は表層で、昼間は海底付近まで潜水しており、陸棚域の水塊を表層から海底まで幅広く利用していることがわかった。1980年代にウミガラス類の主要な餌種であった海氷依存性の魚類ホッキョクダラは、今回の調査では餌として記録されず、ウミガラス類の食性が温暖化に関連した陸棚域の魚類の分布変化の影響を受けている可能性が示唆された。


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