| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第64回全国大会 (2017年3月、東京) 講演要旨
ESJ64 Abstract


一般講演(ポスター発表) P2-C-130  (Poster presentation)

野ネズミにおける放射性セシウム蓄積量の個体間変異の要因

*島田卓哉(森林総研・東北), 山田文雄(森林総研), 亘悠哉(森林総研), 中下留美子(森林総研), 菊地文一(元多摩動物園), 奥田圭(福島大学・環境放射能研), 小野綾美(筑波大学・生命環境), 中島亜利香(筑波大学・生命環境), 藤岡正博(筑波大学・生命環境), 堀野眞一(森林総研)

福島第一原子力発電所事故(2011年3月11日)により放出された放射性物質の森林内での動態を把握し,野生動物への影響を評価する上で,放射性セシウムの蓄積される地表や土壌中を生活空間とするアカネズミApodemus speciosusは最適な動物の1種といえる.そこで,2011年秋より継続してアカネズミを捕獲し,筋肉中に蓄積される放射性セシウム蓄積量(Cs134+Cs137)を測定し比較検討を行った.調査地は,原子力発電所から29kmの福島県飯舘村の国有林(高線量地,空間線量 4.5μSv/hr, 2014年9月測定),原子力発電所から27kmの福島県川内村の国有林(中線量地,空間線量率は平均3.6μSv/hr,2011年10月測定),および70kmの茨城県北茨城市の国有林(低線量地,空間線量0.2μSv/hr,2011年12月測定)である.放射性セシウム蓄積量は,高線量地と中線量地ともに,年次ごとに若干の変動はあるが増減に大きな変化はなく,ほぼ一定の値を維持していた.一方,低線量地では,事故後2年目に大きく減少したが,その後やや増加傾向を示していた.どの地域でも著しい個体間変異が認められたため,その要因を一般化線形モデルによって検討した.目的変数はアカネズミ成体(体重25g以上)における放射性セシウム蓄積量とし,説明変数を捕獲年,体重,性,地表面における空間線量(μSv/hr),アカネズミの炭素安定同位体比,および窒素安定同位体比として,地域ごとに解析を行った.その結果,高線量地と中線量地では明瞭な性差があり,メスの方が放射性セシウム蓄積量が高い傾向が認められた.一方,安定同位体比との間には明瞭な関係が認められず,放射性セシウム蓄積量の個体差が食性に基づくものとは考えられなかった.引き続き継続的な放射線量のモニタリングと分析を加えながら,小型哺乳類における放射性物質の体内蓄積や生態系との関係を明らかにする必要がある.


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