| 要旨トップ | 本企画の概要 | 日本生態学会第64回全国大会 (2017年3月、東京) 講演要旨
ESJ64 Abstract


企画集会 T01-1  (Lecture in Workshop)

農業・農村生態系の健全さとは?:日本的アグロエコロジーの視座から

*日鷹一雅(愛媛大・院・農学)

農業と農村のフィールドの生態系を評価しようとする場合には、深山幽谷のフィールドとは異質な評価軸も考えてみる必要はないだろうか。Agroecologyは、持続的農業の基礎となるべき理論と実践の科学分野であり、例えば、これまで農生態系の構造や機能についての評価の在り方を示し、食システムのあり方に重点を置くこともある(Gleissman 2016)。今後、多様な地域の農業・農村の健全さを評価しようとすると、我が国のような少子高齢化の社会的な特殊事情を抱えた農業・農村における適切な評価の仕方についても、一度よく吟味しておく必要があるだろう。従来、人々の暮らしのための生活農業が主に行われ、基盤となる地域社会組織としての集落機能が永年維持されたきた農村では、フォ-クロアを内包した生態系の維持管理されてきた。その一方で、暮らし向きの状況や昨今の環境変動対応のために変化が生じ始めている。それは、見た目の景観構造のチェックでは見逃しがちの様々な変化も含まれている。ここでは、永年の維持と昨今の激変と狭間で、農業・農村の生態系や生物多様性の実態について、中国・四国におけるフィールド現場からいくつかの事例を紹介する。伝統的農法の生態系継続困難によって生物多様性の減退が危惧される事例、そして水稲作のレジリエンス機能としての「ひよせ」「江」と生物多様性保全。条件不利の海辺急傾斜地の伝統的石積農法における有名産地の生態系サービスなどといったモノである。農業・農村と里山環境の世代継承の実現のためには、従来、農業農村環境の維持のために「守られてきたモノ」の科学的な再検討を通して「守ろうとするモノ」と合わさっていくフォークロリズムも重要である。農業・農村の持続性のための実際的なアクションと連動した科学研究や教育の必要性は大きいものあると言える。農業・農村も農学・生態学も栄え、現場を適正に継承する主体が参加する科学が求められている。


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