| 要旨トップ | 本企画の概要 | 日本生態学会第64回全国大会 (2017年3月、東京) 講演要旨
ESJ64 Abstract


企画集会 T03-1  (Lecture in Workshop)

花粉と種子の流動:遺伝標識を用いた散布研究の総括と展望

*永光輝義(森林総合研究所)

種子植物は固着性だが、その花粉と種子は移動分散(散布)する。花粉と種子の散布は、種子植物の個体群動態や形質進化に影響する。固着した植物は容易に追跡できるが、花粉と種子の追跡は難しかった。しかし、遺伝標識を用いてそれらの散布を追跡することができるようになった。1990年代に、遺伝子座(ローカス)あたり多数の対立遺伝子(アリル)をもつ単純配列反復を用いて、花粉の散布を明らかにする研究がブレイクした。2000年代には、種子の散布も研究され、散布を解析する統計的手法が整ってきた。2010年代には、ケタ違いの数のローカスを調べる方法が登場している。この発表では、まず種子植物ゲノムに用いられる遺伝標識を説明し、そのアリルの挙動を理解するため、集団遺伝学の基礎を簡単に解説する。次に、散布を解析する重要な3つの手法:親子解析、遺伝子プール解析、空間遺伝構造解析を紹介する。これらの手法は、解析アプローチ、サンプリング設計、推定パラメータが異なるので、それらに通底する集団遺伝学的原理に留意して説明する。最後に、遺伝標識を用いた散布解析手法がどのように応用されてきたのか、将来はどのような研究への適用が期待されるのかを述べる。遺伝標識を用いる散布研究にもはや新規性はない。しかし、その確立したツールを用いて未解明の課題に取り組む準備は整っている。


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