| 要旨トップ | ESJ64 企画集会 一覧 | | 日本生態学会第64回全国大会 (2017年3月、東京) 講演要旨 ESJ64 Abstract |
企画集会 T03 3月15日 9:00-11:00 I会場
森林における種子散布の研究は、JanzenとConnellによる「論文の枠組みとして使いやすい」仮説が存在していたためもあり、以前は同一のハビタット内での更新という観点からのものが主流であった。この枠組みはある程度の成功を修め、Howe & Smallwood(1982)などによるすぐれた総説も産出された。
しかし種子散布には、景観スケールでのハビタット間の移動や、地理スケールでの新しいハビタットへの到達など、他にも大きな役割がある。自然界には、地形や撹乱によってもたらされる環境不均一性や、気候変動などによってもたらされる時間方向の環境不均一性が存在する。そういった不均一な環境の下で植物が存在し続けるためには、林分を超えた空間スケールでの種子散布の成功が不可欠となる。
鳥類などの場合は、島の生態学の枠組みでかなり以前から長距離の移住が研究されてきたが、これは例えばバンディングなど、個体をマークして長距離移動を検出する手法があったためであろう。しかし、植物の場合、種子そのものを物理的にマーキングすることは、ほぼ不可能といえる。また、長距離散布の背後には、複雑な確率論のプロセスがある。ゆえに、植物種子の長距離散布の研究は、動物の移出入の研究に比べるとかなり立ち遅れた状況にあった。
しかし、そういった問題を克服できる新しいツールもかなり増えてきている。その中には、GPSなどハードウエア的なツールもあれば、統計モデルなどソフトウェア的なツールも含まれている。そこでこの企画集会では、そういった新しいツールを用いて、主に森林の哺乳類・鳥類による長距離の樹木種子散布の評価を試みた研究事例を4件紹介したい。そして最新の手法の有用性と今なお残る課題、今後の展望などについて議論を展開したいと考えている。
[T03-1] 花粉と種子の流動:遺伝標識を用いた散布研究の総括と展望
[T03-2] 動物に運ばれる種子:動物の行動研究と種子散布研究のつながり
[T03-3] 温暖化条件下で標高方向の種子散布が果たす役割:酸素安定同位体を用いた評価
[T03-4] 鳥類群集と種子散布サービスの空間的な変異:GISを利用した景観分析の視点から