| 要旨トップ | 本企画の概要 | | 日本生態学会第64回全国大会 (2017年3月、東京) 講演要旨 ESJ64 Abstract |
企画集会 T03-3 (Lecture in Workshop)
今日では地球温暖化が急激に進んでおり、動植物の多様性への影響が懸念されている。特に、多くの生物の生息地であり、木材生産や炭素蓄積、防災などの点でも重要である森林において、その構成種である樹木が温暖化にどのように応答するかに注目が集まっている。生物が温暖化から逃れる最も簡単で有力な手段は気温の低い高標高、あるいは高緯度へ移動することである。植物の場合は動物や風、水流などを利用する種子散布によって移動します。そのため、樹木が温暖化から逃れて移動できるかを判断する上では、種子が高標高・高緯度にどれだけ散布されているかを評価する必要がある。しかし、これまで標高方向の種子散布(以下、垂直散布)については一度も評価されてこなかった。
発表者らは様々な標高でカスミザクラの結実木から直接種子を採取・分析し、標高によって種子の酸素安定同位体比が小さくなることを発見した。この関係を利用して「種子の散布標高」と「親木の標高」を評価することで、種子の移動した標高差(垂直散布距離)を求めることが可能になった。
本手法を用いて動物によるカスミザクラの種子散布を評価したところ、ツキノワグマは平均307m、テンは平均193m、高標高に種子散布していることが分かった。このことは、ツキノワグマやテンが野生のサクラを温暖化の危機から守る上で重要な役割を果たしていることを示している。また動物に種子散布される場合、動物の行動によって散布される方向が決定され、その方向によって植物が温暖化から逃れられるかが左右されることが分かった。このことは動物が種子散布する方向と温暖化の効果によって、植物の多様性、ひいては森林の生物多様性が変化する可能性をも意味している。発表では、サクラ以外の樹種で見られた垂直散布の結果も報告しつつ、温暖化条件下で動物による垂直散布が生態系に果たす役割について議論したい。