| 要旨トップ | 本企画の概要 | | 日本生態学会第64回全国大会 (2017年3月、東京) 講演要旨 ESJ64 Abstract |
企画集会 T05-5 (Lecture in Workshop)
乾燥地では、将来の気候変動によって干ばつ頻度の増加が懸念されており、その資源利用へ与える影響評価が早急の課題である。国連・気候変動に関する政府間パネル(IPCC) 第5次報告書では、気候変動の影響の大きさを決める重要な要因の一つとして、災害に対する社会-生態システム(人間活動と生態系が密接に関連したシステム)の脆弱性をあげている。しかしながら、これまでの研究では、気候変動が及ぼす影響を社会と生態系それぞれに評価することが多く、社会—生態システムとしての脆弱性は十分に評価されていない。本研究では、遊牧が盛んなモンゴル草原を対象に、 気候、生態系、人間活動の関係に着目し、気候変動に対する社会—生態システムの脆弱性についてレビューを通じて議論する。
モンゴルは緯度に沿って気候傾度が存在し、北部地域は降水量、植生量が比較的多く安定しているのに対し、南部地域はそれらが少なく変動性が高い。1901-2014年の干ばつ指数(SPEI)を比較すると、南部は北部に比べてその値が高く干ばつが頻繁に生じていた。このような気候・生態系の違いは遊牧民の放牧地管理に大きな影響を与えている。北部では遊牧民の移動距離、頻度が小さく、排他的管理が選択されやすい。南部では移動距離、頻度が大きく、協力的管理が選択されやすい。安定的に植生を利用できる環境では、排他的管理によって各世帯の家畜頭数を増やすことができるが、干ばつ時には逃げ場を得られず、 その影響を強く受ける可能性がある。一方、 協力的管理の場合、干ばつ時に植生が比較的豊かな他郡・他県へ移動しやすいため、その影響をある程度緩和することができる。
このように、放牧地管理に着目すると、草原の生産性が高い北部においても、 干ばつに対する脆弱性は高いことが考えられた。気候変動の影響評価において、気候のトレンドや生態系の応答だけでなく 、気候-生態系-社会が築いてきた関係に着目することが重要である。