| 要旨トップ | 本企画の概要 | 日本生態学会第64回全国大会 (2017年3月、東京) 講演要旨
ESJ64 Abstract


企画集会 T07-2  (Lecture in Workshop)

100年前の標本を使用した全ゲノム解析:進化を直接観察する

*久保田渉誠(東大院・総合文化), 伊藤元己(東大院・総合文化), 森長真一(日大・生物資源)

生物標本が持つゲノム情報をもとに過去を読み解くことは、Museomics研究の中でもとくに近年注目を浴びている分野のひとつである。マンモスやフクロオオカミなどの絶滅種をはじめ、標本ゲノムを利用した研究は現存する生物でも行われており、過去に生じた種分化や遺伝的多様性の変遷など、その生物がたどった歴史に迫る知見が得られている。近年ではゲノム情報を高速かつ網羅的に解読する次世代シーケンサーの目覚ましい発展をうけ、膨大なDNA配列上のどの部分で、どのような機能を持つ遺伝子が、いつ変化したのか特定することもできるようになった。言い換えれば、標本ゲノムを時間軸に沿って比較することで、適応進化の実体である“遺伝子の時間的変化”を直接的に観察することが可能である。
本研究グループではハクサンハタザオという植物を対象に、博物館標本と次世代シーケンサーを駆使した研究を展開している。本種はモデル植物であるシロイヌナズナの近縁種で、100年以上前から様々な生育地で採取され、その標本は日本全国の博物館や植物園に収蔵されている。完全に乾燥した押し葉標本はDNAの分解が進みにくく、ゲノム解析を行う上で非常に適した研究材料と言える。もっとも古いものでは1902年に採取されたハクサンハタザオの標本からもゲノム全体(2.5億塩基対)を網羅するデータを得ている。これまでに、100点以上の標本について全ゲノム解析をしており、数十万におよぶ一塩基多型(SNP)から、標本の採取地点情報や、遺伝的多様性の時間的変遷を高精度で評価することに成功している。さらに、過去100年間で変化が生じた遺伝子が複数見つかっており、地球温暖化、あるいは人為的な環境変化に対する適応進化の遺伝的基盤であることが期待される。


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