| 要旨トップ | 本企画の概要 | | 日本生態学会第64回全国大会 (2017年3月、東京) 講演要旨 ESJ64 Abstract |
企画集会 T07-4 (Lecture in Workshop)
博物館には,様々な年代,季節,地域から収集された植物標本が収められており,中には都市開発などにより現在では失われた集団の標本も残されている.植物標本の中には完熟した果実・種子がついているものもあり,標本によっては種子が発芽可能である.そのため,標本の種子を撒きだして栽培することにより,失われた集団を復元できる可能性がある.そこで本研究では,博物館標本種子の利用可能性を明らかにするために,博物館の標本種子を用いて,標本種子の発芽,生存の確認を行った.また,標本作製方法,その後の保存方法が種子の生存率にどのように影響するかを明らかにするために,野外から収集した種子を用いて最適な標本作製・保存方法の開発を行った.
大阪市立自然史博物館(OSA)に収蔵されている標本種子を用いた発芽試験の結果,24種(18.32%),59標本(8.17%)から発芽が確認され,発芽と呈色を合わせて生存とした場合,84種(64.12%),336標本(46.54%)において生存が確認された.生活史に注目すると,一年生植物または越年生植物は,多年生植物よりも生存種の割合が高かった.
野外から収集した種子の発芽率,生存率に与える標本作製保存処理の影響を調べると, 12種すべてで80℃の高温を経験した種子は生存率が低かった.乾燥温度,保存温度については,40℃以下の温度で乾燥し,-20℃で保存することで多くの種が高い生存率を示した.しかし,種によってそれぞれ最適な方法を検討する必要がある.
今回発芽試験を行った131種について,収蔵されている標本(合計9,905点)の中で完熟種子をつけている標本の割合を調べたところ,平均34.5±22.1%(合計3,053点)であった.この割合は標本庫や種によって大きく異なるであろうが,植物標本庫がシードソースとして高い潜在能力を持っていることを示していると言えるだろう.