| 要旨トップ | 本企画の概要 | 日本生態学会第64回全国大会 (2017年3月、東京) 講演要旨
ESJ64 Abstract


企画集会 T09-2  (Lecture in Workshop)

北アルプス立山:気候変動とハイマツの成長について

*和田直也(富山大学)

マツ科の常緑針葉樹であるハイマツ(Pinus pumila (Pall.) Regel)は、北は極東ロシアのチュコト半島ツンドラ移行帯から、南は日本の本州中部赤石山脈南端の高山帯(広義)にかけて、海洋性気候が卓越する北東アジア地域に分布している。日本において、本種は高木種からなる森林限界よりも標高の高い山岳地に分布している。森林限界を越えた標高帯では、木本植物の成長は鉛直方向への成長が抑制され、水平方向への成長が卓越する植生が成立している。ハイマツは、枝を水平方向へ伸長させ、その枝に大量の針葉を配置し、十分な日射を受け光合成を行うことで、亜高山帯に成立している針葉樹林に匹敵する程の物質生産を行っている。気候変動による影響を受け、気温が上昇すると森林限界の標高帯が上昇し、ハイマツの分布域が縮小するという予測がなされている(Horikawa et al., 2009)一方、高山帯において分布が拡大しているという報告もある(Amagai et al., 2015)。高い生産力を示すハイマツの分布域変化は、高山生態系の構造と機能に大きな影響を及ぼすことが予想されるため、ハイマツの成長変化と気候変動との関係を評価する研究が近年注目されてきた(Wada et al., 2005; Amagai et al., 2015)。モニタリングサイト1000高山帯調査では、ハイマツが示す伸長生長量の経年変動に着目し、北海道大雪山、富山県立山、石川県白山、長野県北岳、以上の4つの山岳域で計8集団を対象に、非破壊的に繰り返し測定可能な主軸長枝の年枝伸長量を測定する長期モニタリングを実施している。本報告では、富山県立山サイトにおいて得られた結果を中心に、1)季節的なシュート伸長生長パタン、2)年枝伸長量の経年変動パタン、3)針葉生産量と年枝伸長量との関係等について紹介し、気候変動が本種の伸長生長に及ぼす影響を考察する。


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