| 要旨トップ | 本企画の概要 | 日本生態学会第64回全国大会 (2017年3月、東京) 講演要旨
ESJ64 Abstract


企画集会 T09-4  (Lecture in Workshop)

南アルプス:キタダケソウの開花は早まっていると言えそうか

*名取俊樹(国立環境研究所)

南アルプス:キタダケソウの開花は早まっていると言えそうか
(国研)国立環境研究所 名取 俊樹 
  モニタリング1000高山帯北岳では、高山植物のフェノロジー、ハイマツの伸長生長、群落種組成、気温、地表温度などを調べている。その中から本講演では、モニタリング1000開始以前から観察が続けられているキタダケソウ満開日の経年変化について紹介する。
  調査地は、南アルプス 北岳 (3、193メートル:山梨県北西部) の南東斜面 サイトB(約3、000メートル)で、最暖月(8月)の月平均気温(気温観測地 約2、900メートル) は10.1~11.4℃(2009~2015年、ただし2010年は欠損である。
  現地に設置したインターバルカメラの画像などから、2013年の場合、5/12~5/16の間に急速に雪が解け、5/16にはほぼ雪が消えた。5/31頃には、枯草の中に緑が僅かに見え始めたことから、キタダケソウなどが芽を出し始めと思われる。6/8にはキタダケソウの株が見分けられるようになり、6/10頃には一部で開花が始まり 6/18には満開になった。したがって、キタダケソウの開花は、消雪後、一ヶ月程で満開になる。消雪前、雪下の植物はほぼ0℃に曝され、消雪直後の気温は3℃程度であり、その後一日当りの気温の上昇は0.2℃ほどで、キタダケソウの開花は気温が低い条件下で進行していた。
  1995年~2015年までのサイトBでの観察および筑波実験植物園に保存されているキタダケソウの開花標本の採取日などから(サイトBのような詳細な採取場所は不明)、キタダケソウの満開日が早まっているとしても、大きな間違いはないと考えられる。また、キタダケソウの開花が低い気温条件下で進行し、消雪や開花が温度の影響を”積算”的に受けていると考えられることから、気温上昇の影響を受けやすく、キタダケソウの満開日は高山帯の環境変動の有効なモニタリング指標となり得る。


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