| 要旨トップ | 本企画の概要 | 日本生態学会第64回全国大会 (2017年3月、東京) 講演要旨
ESJ64 Abstract


企画集会 T10-7  (Lecture in Workshop)

魚類・哺乳類の骨の分析から、軽元素同位体比の「履歴」を復元する

*松林順(総合地球環境学研究所)

動物の移動履歴を復元することは、Isoscape研究の最大の目標の一つである。多数の同位体元素を用いたマップ作りが実現しても、対象生物でスナップショットの同位体情報しか得られていなければ、移動履歴を復元することはできない。移動履歴推定には、生物が生まれてから成長するまでの多数の成長段階における同位体情報を成体の組織から復元する必要がある。このような同位体比の履歴情報を持つ組織として、硬骨魚類の耳石が有名である。耳石の炭酸カルシウムには、孵化から捕獲時までの元素の情報が蓄積されており、ストロンチウムや酸素などの元素で同位体比の履歴情報を得ることができる。しかし、耳石では分析できる元素の種類が限られており、特に窒素や放射性炭素、イオウなど、移動履歴推定に重要な役割を果たす元素の同位体比を測定することができない。また、哺乳類では体毛に同位体比の履歴が蓄積されるが、体毛が生え変わる期間のみの情報しか得ることができず、一生分の同位体比の履歴を得る手法は限られている。
本発表では、魚類・哺乳類の骨の分析から、動物の一生分の同位体比の履歴情報を得る手法について解説する。魚類では、脊椎骨を中心部から辺縁部にかけて段階的に切り分けて分析する手法を考案し、遡河性魚類であるサクラマスのイオウ安定同位体比分析により、手法の妥当性の評価を行った。哺乳類では、大腿骨を中心部から辺縁部にかけて切り分けて分析する手法を考案し、20世紀後半に飼育されていたヒグマの放射性炭素同位体比分析によって手法の妥当性の評価を行った。
この分析手法を応用することで、動物の成長段階ごとの食性の変化など、これまでに不可能だった新しい研究が可能になり、生態学や水産学、人類学などで応用できると考えている。さらに、多元素同位体マップと組み合わせることで動物の一生分の移動履歴の追跡も可能になると考えている。


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