| 要旨トップ | 本企画の概要 | 日本生態学会第64回全国大会 (2017年3月、東京) 講演要旨
ESJ64 Abstract


企画集会 T12-2  (Lecture in Workshop)

早期開花性を獲得した蛇紋岩型アキノキリンソウの集団分化と局所適応

*阪口翔太(京都大学大学院人間・環境学研究科), 堀江健二(旭川市・北邦野草園), 石川直子(東京大学大学院・総合文化研究科), 永野惇(龍谷大学農学部, 京都大学生態学研究センター), 本庄三恵(京都大学生態学研究センター), 工藤洋(京都大学生態学研究センター), 福島慶太郎(首都大学東京・都市環境学部), 成田あゆ(京都大学大学院・農学研究科), 山崎理正(京都大学大学院・農学研究科), 井鷺裕司(京都大学大学院・農学研究科), 伊藤元己(東京大学大学院・総合文化研究科)

北海道・神居古潭帯の蛇紋岩地には,蛇紋岩環境で分化したと考えられるアキノキリンソウの土壌生態型が分布している.この蛇紋岩型植物は小型の葉をもち,地下部の発達がよいといった特徴を備えていて,高ストレス環境である蛇紋岩ハビタットに適応している.一方,蛇紋岩地のそばの林床には非蛇紋岩型が分布する.これらは十分に遺伝子の交換が可能な距離に分布しているにも関わらず,神居古潭帯の各地で2つの土壌型をペアで見ることができる.
このような状況で生態的多型が維持されるためには,異なる環境による分断化選択に加えて生殖隔離機構の発達が重要になると考えられる.実際,アキノキリンソウの蛇紋岩型では,ハビタットにおける夏季の高温乾燥を回避するために早期開花性が進化しており,近接して分布する非蛇紋岩型とは1-2か月の開花期のずれが生じている.この交配前隔離は近接して分布する生態型を分かつ原動力となると予想されたが,マイクロサテライト分析の結果から生態型間の遺伝的分化は低いことが明らかになった.さらに詳細な集団動態解析を行うため,ゲノムワイド中立遺伝マーカーを用いて,旭川市と勇払郡の2つの集団ペアで2つの生態型の間での遺伝子流動の有効性を検証した.その結果両方の集団ペアで,生態型の分岐には遺伝子流動が伴ったことが推定され,実際に雑種後代と推定される個体も検出された.よって生態型間の交配前隔離は完全ではなく,選択の影響を受けにくいゲノムの大部分の分化が低く抑えられていると推察された.一方,北海道全域に分布する非蛇紋岩型,早咲き性の蛇紋岩型と高山型の集団の遺伝的分化を解析したところ,いくつかの蛇紋岩型集団でランダムに非蛇紋岩型から対立遺伝子頻度が変化していることが明らかになった.このことから,早期開花性と特殊土壌への適応によって蛇紋岩型の系統分化が促進されていることが示された.


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