| 要旨トップ | 本企画の概要 | 日本生態学会第64回全国大会 (2017年3月、東京) 講演要旨
ESJ64 Abstract


企画集会 T12-4  (Lecture in Workshop)

サワシロギクにおける生態型集団の遺伝的および生態的分化 ―湿地から蛇紋岩への挑戦―

*西野貴子(大阪府立大学)

 蛇紋岩土壌は多くの植物にとって有害であり、その強い選択圧は侵入・定着する植物の局所適応の引金となる。蛇紋岩土壌への侵入には生理的な選択が即時に生じるため、侵入元の集団の個体に蛇紋岩耐性が備わっている必要がある。その一方で生活史特性は、土壌以外の環境条件や周辺の集団との遺伝子流動などの影響を受け、長い世代時間を経て固定化すると考えられる。
 静岡と愛知県境には小規模ながら蛇紋岩の露頭が点在し、通常は平地の湿地に生育しているサワシロギクAster rugulosus がその蛇紋岩地帯にも分布している。蛇紋岩土壌に侵入したサワシロギクは、花時まで根出葉が残り、地下茎が伸長しなくなるなどの形態的変異を示す。蛇紋岩土壌へ侵入し得た耐性が集団ごとにどうなっているのか、湿地から蛇紋岩土壌への定着の可能性を検討し、その後、どのような生態的分化が生じたのか明らかにした。
 まずは蛇紋岩土壌のどの要因が種子発芽に影響するか、蛇紋岩と湿地のそれぞれの土壌での各生態型の発芽率と、各土壌に栄養添加や物性改変などの処理をした土壌のものと比較した。蛇紋岩土壌の水溶性物質が初期生長に影響し、湿地型の種子では8割前後の個体が本葉展開までに枯死し、蛇紋岩土壌に播種した場合と同じ反応を示した。湿地型ではNi濃度が0.02 mMになると本葉展開できず、蛇紋岩型のある集団では0.04 mM、別の集団では0.06 mMで本葉展開ができず、枯死する濃度に集団差があった。現地調査でも開花開始サイズや痩果の形質、葉の病害虫率などで蛇紋岩型での集団特性が大きく異なり、耐性の違いが影響していると考えられる。以上から湿地型に潜在的な蛇紋岩耐性があり、蛇紋岩土壌に定着後、開花開始を早めて種子生産の効率をあげ、さらには親個体の近傍の発芽適地に種子散布する生活史特性を獲得したのが蛇紋岩型とみなされる。


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