| 要旨トップ | 本企画の概要 | 日本生態学会第64回全国大会 (2017年3月、東京) 講演要旨
ESJ64 Abstract


企画集会 T12-5  (Lecture in Workshop)

ミヤマヨメナにおける矮性型の進化と土壌適応に関する遺伝子発現解析

*石川直子(東大・総合文化), 阪口翔太(京大・人環), 横山政昭(堀場・分析センター), 福島慶太郎(首都大・都市環境), 伊藤元己(東大・総合文化)

キク科ミヤマヨメナ(Aster savatieri, 2n=2x=18)は本州から九州までの湿潤な林床に生育する日本固有の多年草である。またシュンジュギク (var. pygmaeus, 2n=2x=18)は愛知・三重・高知県の蛇紋岩地に隔離分布する矮性変種である。本研究では、蛇紋岩植物であるシュンジュギクについて、その進化の遺伝的背景および土壌適応の分子機構を明らかにするための解析を行ったので、その結果を報告する。
まずミヤマヨメナとシュンジュギクを含む38集団について、核マイクロサテライトマーカーによる集団構造解析を行った。解析の結果、全体は地理的なまとまりを持つ3つのグループに分かれることが明らかになった(1、日本海側、2、愛知県、3、紀伊半島・四国・中国地方)。またシュンジュギクは、非蛇紋岩地のミヤマヨメナが蛇紋岩地帯に侵入して分化したものであり、少なくとも愛知と三重・高知で2回独立に平行進化したことが示唆された。
次にシュンジュギクの蛇紋岩土壌適応の仕組みを解明するための解析を行った。まずミヤマヨメナとシュンジュギクの自生地土壌の含水率・窒素および重金属含有量を調べたところ、シュンジュギク自生地土壌には重金属(Ni, Co, Cr, Mn)が多く含まれていた。重金属は、植物体内に過剰に取り込まれると、酸化ストレスや栄養障害を起こし有害であることが知られる。さらに異なる濃度のニッケル溶液を用いた栽培実験で、シュンジュギクは、ミヤマヨメナと比較して高いニッケル耐性を持つことが示唆されたことから、シュンジュギクの蛇紋岩適応には重金属(少なくともニッケル)に対する耐性の獲得が重要であったと考えられる。
 以上の結果に、矮性形質に関する形態解析と、根で発現する遺伝子の網羅的比較解析(RNA-seq法)の結果を加え、シュンジュギクの進化について議論する。


日本生態学会