| 要旨トップ | 本企画の概要 | 日本生態学会第64回全国大会 (2017年3月、東京) 講演要旨
ESJ64 Abstract


企画集会 T14-3  (Lecture in Workshop)

ゲノム情報で測る環境適応力

*牧野能士(東北大学大学院生命科学研究科)

生物の中には様々な環境に生息する種がいる一方で、限られた地域にのみ生息する種も存在している。こうした違いは、生物が持つ環境適応力の違いによって生じていると考えられるが、その実態は不明である。多種多様な生態・形態を持つ地球上の生物の環境適応力を統一的な視点で測定し、比較することが可能になれば、進化生態学の発展に大きく貢献できるであろう。本講演では、全生物に共通した遺伝基盤であるゲノム情報を活用し、特に、ゲノム上に維持された重複遺伝子から環境適応力を測る試みについて紹介する。重複遺伝子とは、突然変異によってゲノム上に生じた遺伝子のコピーであり、通常、ゲノム上から速やかに消失する。ただし、新規機能を獲得するなどしてゲノム上に維持される重複遺伝子も存在し、ゲノム中の重複遺伝子数は種によって様々である。これまでの研究により、ゲノム配列が既知であるショウジョウバエ属や哺乳類の比較ゲノム解析を通して生息環境が多様な種ほどゲノム中に多くの重複遺伝子を持つことを明らかにしてきた。先に述べた通り重複遺伝子は消失しやすい特徴を持つが、多様な環境に生息する種では自然選択により重複遺伝子がゲノム上に維持されやすいためだと考えられる。さらに、環境適応力が高い侵略的外来種に着目し、侵略種ゲノム中には重複遺伝子が多く維持されているとの仮説を立てて検証を行った。ヒアリなど侵略的外来種8種を含むゲノム配列既知の35動物ゲノムを解析した結果、侵略的外来種と重複遺伝子の維持率には相関は見られなかった。ところが、解析に用いた動物の繁殖戦略の相違を考慮することにより、侵略種ゲノム上に多くの重複遺伝子が維持される明確な傾向が観察された。これらの結果は、ゲノム配列が生物の環境適応力を判断する材料になりうることを示すものであり、今後、絶滅危惧種の指定や侵略種の予測など保全生物学の分野への応用も期待できる。


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